着なれない高校の体育着に着替えた雪弥は、運動場で騒ぐ男子生徒たちの中で「おじさんに見えないかな、いや、やっぱりおじさんだろう」という自問自答からなかなか抜けられずにいた。

 白鴎学園高等部の正門から広がる運動場には、三組と四組の男子生徒たちがおり、合計二十四人の男子高校生たちが集まっていた。そのはしゃぎようは半端ではなく、飛んだり跳ねたり取っ組み合いを始めたりと、まるでまとまりなく騒いでいる。

 タンクトップのいかつい男性教師が、運動場の中央に立って、収拾のつかない生徒たちの群れを見つめていた。薄い唇は引き攣り、こめかみには青筋が浮かび上がっている。


「さっきも言ったように……はしゃぐな馬鹿野郎! お前らは中学生か!」


 男性教師が、息を吸い込んで声を張り上げた。雪弥は「小学生か、のほうがいいと思うんだけど」と心の中で呟いてしまった。

 男子生徒たちが「はーい」と答えて、気楽に会話を交わしながら中央へと向かい始め、ゆっくりとした歩調で雪弥はその後尾に続いた。少年たちに溶け込めているのかと彼は心配していたが、誰も不審そうに振り返る生徒がいないことを確認して息をついた。

 そんな雪弥に、ふと声を掛ける生徒があった。

「うちの学校少人数制だろ? サッカーとかの場合はさ、合同で授業すんだ。女子はバレーらしいぜ」

 雪弥の隣にやってきた生徒は、修一だった。彼は、待ちきれない様子でランニング姿勢を取っている。若い子は元気だなぁと思った雪弥の隣に、不服そうに体育着をきこなす暁也が並んだ。

 暁也はじろりと雪弥を見やり、小さく口を動かした。

「お前、スポーツ出来んのか?」
「まぁ人並みに」

 雪弥はそう答えて、肩をすくめて見せた。暁也は鼻を鳴らしたが、雪弥を挟んだ隣にいた修一は楽しそうにこう言う。

「なぁ暁也、まず俺が稲妻シュートを決めるからさ、サポート宜しくな!」
「ふん、相手は現役サッカー部多数の三組だぜ? やり損ねたら、ジュース一本だからな」
「ふっふっふ、どうせ他は俺の敵じゃないぜ。西田(にしだ)にも負けないし」

 修一が不敵な笑みを浮かべ、ある方向へちらりと視線を寄こす。

 そこには彼と同じ背丈をした少年がいて、目が合った途端に「俺だって負けねぇし!」と言い返してきた。茶色く焼けた肌が印象の、逆立った頭髪が太陽で赤く見える男子生徒だ。彼は現役サッカー部、キャプテンの西田である。

「俺のクラスが買ったら、お前らがいつも買い占めてる貴重なそばパンを譲ってもらおう!」

 西田は吠えて、体育教師の元へと踵を返した。「あいつ、絶対ぇ負かす」と暁也が真剣な面持ちで言い、修一が珍しく真顔で「そばパンは譲れねぇ」とぼやいた。

 その様子を見ていた雪弥は、仲がいいなぁとぼんやり思った。暁也が仏頂面で短く答えても、修一は彼の心情を読み取って感情豊かに返すのだ。実に良いコンビだと、雪弥は二人の少年たちを微笑ましくも思った。