それは、都市伝説のように語り継がれる噂であった。国が立ち上げた機密組織があるという。そこに所属しているのはエージェントと呼ばれる人間で、上位の者にはそれぞれ数字が振られて番号で呼ばれており、影で日々暗躍しているのだとは聞いたことがあった。

 たった一本の電話で、それは金島の中で事実となった。

 あまりにも唐突に、そのときは来たのである。

『初めまして、になるかね、金島君。特殊機関のナンバー1だ。名前はない。エージェントナンバーで呼ぶのは馴染みがないようなら、――そうだな、グレイとでも呼ぶといい』

 腹に響くような低い声だった。その直前までずっと「ただの噂だ」「都市伝説だ」と聞き流していた金島は、一瞬ひどく動揺した。

 血が流れることも厭わない組織に、得体の知れない恐怖を覚えた。しかし、そこには「正義」も存在するのだ。金島は自身に言い聞かせた。ナンバーを語る恐ろしい組織もまた、国家の正義のために造られた機関なのである。

 都市伝説のように語り継がれる「影の機関」の噂には、常に「1」と「4」がつきまとっていた。

 トップを務める「1」に対して、死と破壊を象徴する不気味な「4」の数字がある。それは数字を宛がわれた組織の人間だと金島は知っていたが、「4」の数字を背負った人間が白鷗学園にいると聞かされたとき、取り戻した冷静さが揺らいだ。


 ナンバー4は、ペテン師にして死と破壊の申し子だ。

 そんな不吉な言葉が、警察上層部で出回った時期がある。ナンバー4に会ったという人間が「あれはペテン師だ」といった言葉もあったようだが、直接その人物から話を聞かされたわけではないから、誰が述べたかは知らない。


 特殊機関から電話連絡を初めて受けたとき、金島が分かっていた事は、「影の機関」と共に流れる「4」の数字は、多くの死を孕んだ話題ばかりを引き連れているようだ、というぼんやりとした話だけだ。

 ナンバーが「1」であると自己紹介した男は、白鷗学園に大量のヘロインが持ちこまれ、学生内で覚せい剤が出回っていることを金島に述べた。東京で起こっている事件と関わりがあると言われ、金島が真っ先に思い浮かべたのは本部長として自分が関わる事よりも、息子の暁也のことであった。

 ナンバー1は多くを語らなかった。指示を待てと命令し、現場に入っているナンバー4に協力せよと告げ、麻薬常用者や関係者には相応の処置をするといって電話を切った。

 金島はナンバー4とコンタクトを取る前に、茉莉海市の資料を迅速に取り寄せた。数字の「4」に死という冷たい言葉を思ったが、彼はそれを気力で押し払った。

 とはいえ、やはり茉莉海市やその周辺一帯の事件資料を引き出しても、これといった情報は何一つ上がって来ないでいた。もとより、犯罪らしいものが起こった事が一度もない場所なのである。不穏な動きや気配があるという報告もない、全く想定もしていなかった事態だった。

 一体、あそこで何が起こっているのだ。

 金島は急いていた。電話を掛ける合図を出すというナンバー1からの連絡を待ちながら、高知県内で薬物に関する事件を見直した。椅子の上でじっとしていられず、思わず立ち上がって携帯電話から部下の一人に連絡を入れた。