『……しかし、そもそも大量のヘロインを持ちこむこと事態、非常に難しく思われます。各国の取り締まりも厳重ですし…………そうですね、可能性としては中国から入荷されていることは考えられます。現在ヘロインが爆発的に広がり、対策はしているものの一向に収まる気配がない、と……ヘロインは大人気だそうで、高価であるにも関わらず歯止めが利かない状況のようです』

 大人気、という言葉に雪弥は可笑しくなった。笑みをこぼしながらも、それを口にはせず「その可能性は僕らも考えています」と続ける。

「事実中国からの密輸業者が、茉莉海市の漁港に入っていたとの情報もあります。懸念は、東京の事件では卸業者が口封じで殺され、すぐに白鷗学園という新たな卸し場所が出来た事です。一つ潰しただけでは解決にはならないでしょう」

 一度認識を確認するように間を置くと、金島が『その通りですね』と、頷くような衣擦れの音と共にそう答えた。

『すぐに新たな卸し場所を手配した、表に出ていないような別グループが存在している可能性ですね』
「学園に勤める人間をそそのかした線も強いとすると、こっちが解決したとしてもまた新たな被害場所が作られる。だからこそ、東京都こちらの双方で上手く動いて、同時に押さえる必要がある――まぁその中国からの密輸業者が、覚せい剤も一緒に運んできているというのなら楽なんですけどね。それなら話の展開も早い」

 途中空気を和らげるように本心交じりに言って、雪弥は苦笑を浮かべた。

 すると、数秒の沈黙を置いて金島が声を上げた。

『……一つよろしいでしょうか。密輸業者側が、薬物の製造加工にも携わっていた場合であれば、両方同時に持ち込んできているという可能性は捨てきれないと思います。本業が運ぶ事であるのか、薬物のプロフェッショナルであるのかによっても、事情は違ってくるとは思いますが』

 結論としては言えないように、その声は電話越しで口ごもるような音だった。なるほど、と思いながらも雪弥は「続けて」と柔らかく促した。

『自分たちで商品を製造し、別からも商品化された物を仕入れて、同時に売っていた業者が過去にはありました。とはいえ、そうなると相応の設備とスペースを確保した拠点を必要としますし、組織規模もかなり大きなものです。日本警察だけではなく、外の警察機構に協力体勢を求めての捜査になると思われます』

 そう想定して現在の学園にあてはめるとすると、自分たちで加工と製造を行い売りこむと同時に、資金・運営のために原料を運ぶ仕事をやっているものとも出来る。

「その場合だと、本業が運ぶ側でないという事にもなるので、今以上に複雑で厄介になりますよね……だとしたら、その後ろには更にデカいバッグがついているだろうし――あ。そうだ。ヘロインに関しては純粋純白で、取引されたあと国内で加工されているらしいです」

 詳細まではナンバー1から聞いていない可能性を考え、情報を共有しておいた方がいいだろうと思い、雪弥はそれを伝えた。

 金島が『純粋純白』と呟いて息を呑み、慎重に切り出す。