静寂したままの携帯電話を耳に当てながら、どこかで同じようにこちらの沈黙を聞いている金島を思い浮かべる。寝起きの汗が身体にまとわりついている心地悪さに、髪をかき上げて、ベランダから吹き込む夜風に身を冷ました。

「我々の許可なく、事件に介入することは認めません。常に指示に従ってください。今起こっている事件で明白になっていることは、白鷗学園に大量のヘロインがあること、そして学園内で覚せい剤が出回っていることです」

 東京の事件で我々が動いている事はご存知ですか、と雪弥は落ち着いた口調で言った。金島が電話越しで低く呻き、考えるようにしばらく間を置いたあと、ようやく『東京の事件と聞いております』と答えた。

「東京で、少々腑に落ちない薬物事件が相次いでいるんです。その新たな卸し場所が、この白鷗学園であると我々は考えています」
『先程話を聞かされましたが、今でも信じられません。……何故、学園に』

 雪弥は遅い返答を待つつもりで、ベッドに腰を下ろして説明した。

「盲点だった、と捜査に携わっている者は皆一同に述べています。話を聞かされた時は、まさか学校敷地内であるとは僕も思いませんでしたし――いろいろと疑問の残る事件ですが、やはり大量のヘロインが持ちこまれていると同時に、覚せい剤が出回っていることにも強い疑問があります」

 また少しばかり沈黙が続くんだろうな、とばかり思っていた。

 だから言葉を切ってすぐ、受話器越しからはっきりとした低い声が聞こえてきた時、雪弥は不意打ちを食らって目を丸くした。

『スマックの存在を隠すということを想定して見ても、確かに疑問を感じざるをえません。覚せい剤で欺こうと考えると、逆にそれはリスクばかりでしかない。学生に出回る大半はスピードやMDMAなどの覚せい剤ですが、安易な摂取が出来る錠剤タイプのものが多く、麻薬常用者に愛用されている注射や吸引を避ける傾向にあります』
「……そうですね、通常は売人によってそれらがさばかれる。しかし、覚せい剤はどうやら、学園内の学生にのみ出回っているみたいなんだけど」

 答える雪弥は、仕事上の敬語口調ではなく、語尾が思わずいつもの口調に戻った。

 これまで様々な警察関係者とコンタクトを取ってきたが、冒頭から数分たらずで、ここまではっきりと意見を述べて話してきた人間は初めてだった。どこか怯えを潜ませていたが、これが本来の金島一郎本部長なのだろうと雪弥は思った。

 麻薬の一種であるヘロインは、通称スマックと呼ばれる最も規制が厳しい薬物だ。加工した後はきめ細かい白い粉末になり、そこに砂糖やカフェインなどの添加物が混ぜられて薄められる。赤み掛かった灰色、茶色、黒色をしたものがあるのはそのためだ。

「内部にいる共犯者が配っているらしいけど、やはりそこで発生するのはリスクばかりとしか思えないというのは、こちらも同意見です。覚せい剤は麻薬とは別ルートで来ることが大半で、そう考えると、二つの密輸業者が学園に関わっている可能性も捨てきれない」

 既に複数の仕入れ先が存在しているとなると、それはそれで面倒なパターンだ。