どこでどう「素敵」だといわれる要素があったのか。
雪弥は全く理解できずに頬をかいた。にっこりと笑う愛美に、下手な作り笑いを浮かべて場を切り上げようと口を開く。
「その、突然訪ねてごめんね。今日は話をありがとう。えぇと、先輩想いのあの子……カナエちゃんにもそう伝えてくれるかな」
香奈枝の名を思い出すまでにコンマ数秒かかったが、愛美は「はい」と柔らかく答えて頷いた。雪弥はゆっくりとガラス扉を締め、そのまま第二音楽室をあとにした。
雪弥は教室へと向かいながら、修一が祟りに遭ったと語った理香が、暁也がいっていたように、今でも町に繰り出していることを思った。
怪談話をでっちあげたのは、恐らくはヘロインを抱える学園から、学園関係者たちを遠ざける目的もあるのだろう。愛美や香奈枝から聞き出した情報から、理香という少女に高価なプレゼントをする男の影があるのも確かだ。
今事件と結び付けるのは早急である。とはいえ、もし仮に理香が事件の協力者、もしくは薬物使用者として参加しているとしたならば、付き合っている男は事件当事者という図式が浮かぶ。
生徒たちの間を縫うように歩いていた雪弥は、三学年の教室に差しかかったところで、カキーン、という懐かしい音に足を止めた。開いた窓に歩み寄ると、野球のユニフォームをつけた少年たちが運動場に広がっている。
「…………やっぱり、すごく若いなぁ」
二組のチームに別れた彼らは、一喜一憂しながら楽しそうに練習試合を続けていた。白がベースのユニフォームは、すでに茶色い土埃にまみれている。
そのとき、雪弥は視界の端に映る廊下に、学生服ではない人間が見えてそちらへと顔を向けた。雪弥と同じぐらいの背丈をした私服の青年が、手にプリントや資料を持って教室隣の空き部屋へと入って行った。扉には「進学講座、数学」と印字された紙が貼られている。
現役の大学生が、高校生を教えていることを雪弥は思い出した。教室よりも少し小さな室内にはたくさんの生徒が座っており、狭まったスペースの窓側には、数学科目を担当している矢部の姿があった。大学生はやや小さめの黒板前に立つと、緊張気味に生徒たちを見回して講座を始める。
教師になりたいと思っている大学生には、とても恵まれた環境なのかもしれない。大学構内でも教師の仕事を模擬的に体験する授業が行われ、積極的な生徒には、実際に高校生へ勉学を指導する時間が設けられている。
雪弥は歩き出し、白鷗学園を取り囲む茉莉海市の地図を記憶から引き出した。
高知県にある典型的な山のふもとに点在する農地に囲まれた茉莉海市は、白鷗学園がある都心を中心に建物が広がっており、大通りから住宅街を挟んだ北側に市の建物を置いていた。そこには電車や大きな道路が敷かれ、交通に不便しない場所となっている。
旧市街地と呼ばれる場もまだ残っていたが、それでも農地、住宅街、商業地帯、港がきれいに区分されており、市の活性化を図る大通りに商店街や商業用の建物が密集していた。
やはり、まず調べるなら中心街かな。
思いながら、雪弥は穏やか過ぎる白鷗学園高等部の様子を眺めた。廊下には生徒が行き交い、通り過ぎて行く教室から時々じゃれあう少年たちが飛び出す。各教室では勉強や談笑する生徒たちの声が飛びっていた、色を拒絶するような建物内部の白も賑わいに満ちていた。
覚せい剤やヘロインなんて、まるで遠い世界の話だと、雪弥は一人静かに思った。
雪弥は全く理解できずに頬をかいた。にっこりと笑う愛美に、下手な作り笑いを浮かべて場を切り上げようと口を開く。
「その、突然訪ねてごめんね。今日は話をありがとう。えぇと、先輩想いのあの子……カナエちゃんにもそう伝えてくれるかな」
香奈枝の名を思い出すまでにコンマ数秒かかったが、愛美は「はい」と柔らかく答えて頷いた。雪弥はゆっくりとガラス扉を締め、そのまま第二音楽室をあとにした。
雪弥は教室へと向かいながら、修一が祟りに遭ったと語った理香が、暁也がいっていたように、今でも町に繰り出していることを思った。
怪談話をでっちあげたのは、恐らくはヘロインを抱える学園から、学園関係者たちを遠ざける目的もあるのだろう。愛美や香奈枝から聞き出した情報から、理香という少女に高価なプレゼントをする男の影があるのも確かだ。
今事件と結び付けるのは早急である。とはいえ、もし仮に理香が事件の協力者、もしくは薬物使用者として参加しているとしたならば、付き合っている男は事件当事者という図式が浮かぶ。
生徒たちの間を縫うように歩いていた雪弥は、三学年の教室に差しかかったところで、カキーン、という懐かしい音に足を止めた。開いた窓に歩み寄ると、野球のユニフォームをつけた少年たちが運動場に広がっている。
「…………やっぱり、すごく若いなぁ」
二組のチームに別れた彼らは、一喜一憂しながら楽しそうに練習試合を続けていた。白がベースのユニフォームは、すでに茶色い土埃にまみれている。
そのとき、雪弥は視界の端に映る廊下に、学生服ではない人間が見えてそちらへと顔を向けた。雪弥と同じぐらいの背丈をした私服の青年が、手にプリントや資料を持って教室隣の空き部屋へと入って行った。扉には「進学講座、数学」と印字された紙が貼られている。
現役の大学生が、高校生を教えていることを雪弥は思い出した。教室よりも少し小さな室内にはたくさんの生徒が座っており、狭まったスペースの窓側には、数学科目を担当している矢部の姿があった。大学生はやや小さめの黒板前に立つと、緊張気味に生徒たちを見回して講座を始める。
教師になりたいと思っている大学生には、とても恵まれた環境なのかもしれない。大学構内でも教師の仕事を模擬的に体験する授業が行われ、積極的な生徒には、実際に高校生へ勉学を指導する時間が設けられている。
雪弥は歩き出し、白鷗学園を取り囲む茉莉海市の地図を記憶から引き出した。
高知県にある典型的な山のふもとに点在する農地に囲まれた茉莉海市は、白鷗学園がある都心を中心に建物が広がっており、大通りから住宅街を挟んだ北側に市の建物を置いていた。そこには電車や大きな道路が敷かれ、交通に不便しない場所となっている。
旧市街地と呼ばれる場もまだ残っていたが、それでも農地、住宅街、商業地帯、港がきれいに区分されており、市の活性化を図る大通りに商店街や商業用の建物が密集していた。
やはり、まず調べるなら中心街かな。
思いながら、雪弥は穏やか過ぎる白鷗学園高等部の様子を眺めた。廊下には生徒が行き交い、通り過ぎて行く教室から時々じゃれあう少年たちが飛び出す。各教室では勉強や談笑する生徒たちの声が飛びっていた、色を拒絶するような建物内部の白も賑わいに満ちていた。
覚せい剤やヘロインなんて、まるで遠い世界の話だと、雪弥は一人静かに思った。