「信じてくれないと思いますけど、私達の知る理香は、クラリネットがとっても上手な優しい女の子だったんです。まるで人が変っちゃったみたいに急に派手になって、顔のいい生徒をとっかえひっかえして、しだいに部活にも来なくなって……『じゃあ辞める』って勝手に辞めちゃったんですよ! 先輩みたいにこうしてうちにやって来られても困るんです。愛美(あいみ)先輩は優しいから、理香のことも心配しちゃって――」
「香奈枝ちゃん、待って。この人、今日三学年に来た転入生よ」

 ようやく女子生徒が述べて、まくしたてるような香奈枝の言葉が止まった。

 はたと動きを止めた香奈枝は、しばらく呆けって雪弥を見つめた後、「愛美先輩」と呼んで困惑顔で彼女を振り返った。そして、雪弥の方を指差して尋ねる。

「転入生……ですか?」
「「うん、そう」」

 愛美と呼ばれた女子生徒と、雪弥がほぼ同時に答える。

 それを聞いた香奈枝が、全ての言葉を失ってしまったように口をポカンと開けた。そのタイミングで緊張した空気が解けて、教室にいた他の女子生徒たちが、少し安堵した様子で楽譜を手に取った。

 香奈枝が焦ったように口をぱくぱくさせ、愛美が言葉を待つように、困ったように微笑みかけた。

「愛実先輩、あの、え? この人が転校生? うっそ、私もしかして……」
「うん、私達、勝手に早とちりしてしまったみたい」
「…………どうしよう私バカみたいにましくたてて……うわぁ……恥ずかし過ぎる…………」

 彼女たちの向かいで、室内に視線を滑らせた雪弥は、部活に集まった女子生徒たちの鞄が目に留まった。普通なら気にも掛けない光景であったが、ここにいる少女たちには派手すぎるブランド品が多くあることに気付いて違和感を覚えた。

 学校指定鞄の傍には、赤い色彩が際立つ化粧ポーチがあった。その他にもシルバーの光沢が映える大人向けの財布やキーポーチが鞄口から覗いており、どれも金や銀で装飾されたブランドマークが入っていた。

 滑らかな素材の小さなポーチや小銭入れが、鞄から覗いた使用感のある学生ノートの中で浮いていた。高級感をまとったそれらは、まるで場違いな場所に放りだされているかのようだった。

 雪弥の視線の先に気付いた愛美が、控えめに笑みを浮かべてこう言った。

「それ、まだ理香ちゃんが部活に顔を出してくれていたとき、彼女にもらった物なんです」
「あれってブランド品ってやつだよね? 一つや二つじゃないみたいだけど」
「そんなの持て余すほど手に入るから、あげるっていって私たちに配っていったんですよ」

 恥ずかしさの波が少し落ち着いた香奈枝が、むっつりとした表情で口を挟んだ。

「というか先輩、転入生だったんですか?」

 そう尋ねる瞳は、なぜ理香のことを知りたがっているんだ、と語っていた。