小さな疑問の言葉が細々と上がったが、その中で一人の少女がトランペットを置いて雪弥のもとへとやってきた。膝上の青いスカートが少女の歩みに合わせて揺れて、腿下の白を覗かせる。
雪弥の前に立った女子生徒は、小柄な体躯をしていた。丸みを帯びた少し長めのショートカットに、花弁のように膨らんだ小さな唇と大きな瞳が印象的だった。すっと伸びた細い手足は白く、少し困惑するように微笑んだ顔は、清楚な美少女を思わせた。
「あの、何かご用ですか?」
フルートの旋律に似た澄んだ声が、遠慮がちにそう尋ねてきた。
細い眉を吊り上げた別の女子生徒が立ち上がる様子を視界の端に捕えながら、雪弥は、どう切り出そうかと考えて口を開いた。
「少し前に退部した二年生の子、いたよね。少し彼女の話を聞きたいなぁと思って……」
「えっと、理香ちゃんの、ですか?」
呟いた女子生徒の顔に、神妙な表情が浮かんだ。彼女はすまなさそうに一度視線をそらし、伏し目がちに「あの、申し訳ないのですが」と続けた。
「理香ちゃんは、先月の五月に部活を辞めてしまって、それから私も部員の子たちも会っていないので……」
雪弥は質問のため口を開きかけたが、困ったような女子生徒の様子を前に、出かけた言葉を飲み込んだ。
どうしようかなぁと迷っていると、やって来た別の女子生徒がその少女の肩に手を触れて「先輩」と声を掛けた。「私に任せて下さい」と目で伝えるように頷いたかと思うと、彼女が雪弥の前に立った。
天然パーマの入った髪を、高い位置で一つにまとめている少女だった。背丈は初めに声を掛けてきた女子生徒と同じくらいだが、その体躯はしっかりとしていた。
腿辺りで揺れるスカートからは筋肉の付いた足が覗き、あどけなさが残る顔には薄化粧がされている。つり上がった瞳は憮然とした様子で雪弥を見上げ、その女子生徒は仁王立ちで腕を組んだ。
「二年二組の、新城香奈枝です」
ぶっきらぼうに言葉が吐かれ、雪弥は数秒遅れて「三年の本田です」と答えた。戸惑う彼に、香奈枝と名乗った女子生徒はこう続けた。
「先輩も、理香に遊ばれたんですか?」
「は。え、遊ばれた……?」
マスウピスの形が残る薄い唇から出た言葉は、直球だった。雪弥は思わず、一体誰が誰に遊ばれたというのだろうか、と呆気に取られた。
その様子を「先輩」と呼ばれていた三年生の女子生徒が見ていたが、小首を傾げた後、何かに気付いたように「あ」と唇を開きかけた。しかし彼女よりも早く、唇を尖らせた香奈枝の方が先に発言した。
「今年に入ってから何人もこうして来られましたけど、うちに来ても何の解決にもなりませんからね。理香は惚れやすくて飽きやすいみたいで、顔が良い人には誰にでも声を掛けていたんですよ」
香奈枝の斜め後方にいた女子生徒同様、雪弥も疑問の声を上げようとしたが、やはり彼女の方が次の言葉を紡ぐのが早かった。苛立ったように早口で話したかと思うと、短い息を吸い込んですぐにマシンガントークを再開したのだ。
雪弥の前に立った女子生徒は、小柄な体躯をしていた。丸みを帯びた少し長めのショートカットに、花弁のように膨らんだ小さな唇と大きな瞳が印象的だった。すっと伸びた細い手足は白く、少し困惑するように微笑んだ顔は、清楚な美少女を思わせた。
「あの、何かご用ですか?」
フルートの旋律に似た澄んだ声が、遠慮がちにそう尋ねてきた。
細い眉を吊り上げた別の女子生徒が立ち上がる様子を視界の端に捕えながら、雪弥は、どう切り出そうかと考えて口を開いた。
「少し前に退部した二年生の子、いたよね。少し彼女の話を聞きたいなぁと思って……」
「えっと、理香ちゃんの、ですか?」
呟いた女子生徒の顔に、神妙な表情が浮かんだ。彼女はすまなさそうに一度視線をそらし、伏し目がちに「あの、申し訳ないのですが」と続けた。
「理香ちゃんは、先月の五月に部活を辞めてしまって、それから私も部員の子たちも会っていないので……」
雪弥は質問のため口を開きかけたが、困ったような女子生徒の様子を前に、出かけた言葉を飲み込んだ。
どうしようかなぁと迷っていると、やって来た別の女子生徒がその少女の肩に手を触れて「先輩」と声を掛けた。「私に任せて下さい」と目で伝えるように頷いたかと思うと、彼女が雪弥の前に立った。
天然パーマの入った髪を、高い位置で一つにまとめている少女だった。背丈は初めに声を掛けてきた女子生徒と同じくらいだが、その体躯はしっかりとしていた。
腿辺りで揺れるスカートからは筋肉の付いた足が覗き、あどけなさが残る顔には薄化粧がされている。つり上がった瞳は憮然とした様子で雪弥を見上げ、その女子生徒は仁王立ちで腕を組んだ。
「二年二組の、新城香奈枝です」
ぶっきらぼうに言葉が吐かれ、雪弥は数秒遅れて「三年の本田です」と答えた。戸惑う彼に、香奈枝と名乗った女子生徒はこう続けた。
「先輩も、理香に遊ばれたんですか?」
「は。え、遊ばれた……?」
マスウピスの形が残る薄い唇から出た言葉は、直球だった。雪弥は思わず、一体誰が誰に遊ばれたというのだろうか、と呆気に取られた。
その様子を「先輩」と呼ばれていた三年生の女子生徒が見ていたが、小首を傾げた後、何かに気付いたように「あ」と唇を開きかけた。しかし彼女よりも早く、唇を尖らせた香奈枝の方が先に発言した。
「今年に入ってから何人もこうして来られましたけど、うちに来ても何の解決にもなりませんからね。理香は惚れやすくて飽きやすいみたいで、顔が良い人には誰にでも声を掛けていたんですよ」
香奈枝の斜め後方にいた女子生徒同様、雪弥も疑問の声を上げようとしたが、やはり彼女の方が次の言葉を紡ぐのが早かった。苛立ったように早口で話したかと思うと、短い息を吸い込んですぐにマシンガントークを再開したのだ。