土地神様――そう切り出した修一の瞳は、好奇心でいっぱいだった。堪え切れない笑みからは片方の八重歯が覗き、内緒話をするような声色は弾んでいる。

 土地神様の祟りと話題が振られた瞬間、暁也はそれと対象の温度を見せた。

「お前、そんな噂信じてんのかよ」

 くだらない、といわんばかりに暁也が答えた。彼はオニギリを食べ終わり、缶ジュースを持ち上げた手を止めて胡散臭そうな表情を浮かべている。

 修一は、残りのオニギリをすばやく胃に詰め込むと、「だってチェンメ回ってたじゃん。見てないの」とせがんだ。そこに、雪弥はほぼ反射的に口を挟んでいた。

「それ、詳しく知りたいな」
「あれ、お前そういうの好きなのか?」

 疑う様子もなく、修一が活気に満ちた瞳で雪弥を覗きこんだ。冒険心が強そうな瞳と距離を置きつつも、雪弥は話を合わせるように頷いた。

「うん、前の学校では、いろいろと都市伝説とか集めていたよ」
「へぇ! そうなんだ、俺もそういう話し大好きでさぁ」

 気が合うなぁ、と続ける修一の横で、暁也はジュースを口にしながら、面白くもなさそうにパンの袋を引き寄せた。

 暁也にとって、修一という少年は、遠足や旅行先で歩き回るようなタイプで、好奇心の強さに底が見えない友人だった。単純思考だが行動力は強く、良く言えば、いつも自分の気持ちに素直な少年だ。

 非現実的な事柄にも興味を持っており、修一が「未確認飛行物体を探そうぜ」「畑に歩く薬草ってのがあるらしいから捕まえて飼おう」「森の精霊がいるんなら、きっと畑道にも何かいるかもしれない」そう提案するたびに、暁也は付き合わされていた。

 外を歩き回るのはまだいい、一番厄介なのは、修一が存在もしない物事を信じていることだ。そこだけが唯一、話が合わないところである。

 現実主義の暁也は、ありもしない作り話を延々と聞かされる事は好きではなかった。「クリスマスは早く眠らないとサンタさんが来ない」と聞かされるくらいうんざりしてしまう。

「うちの学校ってさ、夜の九時に一回鐘が鳴ったら、翌朝の六時まで鳴らねぇの。で、夜最後の鐘が鳴ったあと学校に入ると、土地神様に呪われるって話なんだ」
「祟りなんかあるわけねぇだろ。くだらねぇ」
「あるんだってば」

 口を挟んだ暁也にそう言ってから、修一は雪弥に聞かせるべく話しを再開した。

「最近一番有名な怪談なんだけどさ、この白鷗学園は昔、家も畑も作れない聖地だったらしいんだ。強い神様がいたから、ここに学校を建てるとき、坊さんがその土地神様と約束を交わしてさ。『子供たちの学びのためにこの場所をお借りしますが、夜の九時にはお返しします』っていうもので……」

 修一は怖い話を聞かせるように声を潜めたが、その声色は弾んでいた。

「その合図は、夜九時に鳴る最後のチャイムなんだ。俺たちの学校がその土地神様の領地に戻ったあと、敷地内にいたり、侵入しようとすると祟られるって噂だぜ? 肝試しで学校に入ろうとした二年生が、怪異に遭ったって大騒ぎになったらしくてさ、そのあとチェンメが回ったんだ」
「へぇ……」

 怪談話ねぇ、と喉元に出かけた言葉を曖昧に濁し、雪弥は頭をかいた。