「立派なもんだろ?」

 じっとそちらを見つめていると、先に腰を降ろしていた修一がそう言った。座ることを忘れていた雪弥は、うっかりしていたとは表情に出さず「そうだね」と答えて、彼の向かい側に腰を下ろす。

 陽差しはあるのだが、地面はひんやりとして冷たかった。風も時々強く吹き、排気ガスにも汚れていない新鮮な空気が心地よく身体を包みこむ。白鴎学園の規模についての感想は胸にとどめ、雪弥は修一の意見を肯定するように頷いて見せた。

「あれは、大学だったよね? パンフレットに載っていたのを見たよ」

 何気ない雪弥の切り出しに、パンの袋を開けていた修一が声を弾ませた。

「おう。教員免許が取れる付属の大学さ。うちで教師目指してるやつらの大半は、あっちに進学希望を出してるぜ。設備は良いし就職にも強くてさ。それに、地元に住んでいれば学費も安いんだ」
「ふうん、でも廊下歩いているときちらりと見たんだけど、ほとんどの生徒は教室で受験勉強していたね」

 そうなんだよな、と修一は手元に視線を戻して相槌を打つ。

「まぁ付属の高校って言っても、一般入試とかは他校の受験生と変わんないと思うし、進学がかかっていることにかわりはねぇじゃん? 就職サポートもしっかりしてるし、入学金免除で授業料も破格。金銭面で進学を諦めていた奴らも絶対合格するって勢いだし、県内にある他の大学とか、県外の大きい所に進学希望している奴らもいるから、俺らの学年だけぴりぴりしてんのよ」

 袋からチョコパンを取り出した修一は、そういえば、という顔をして手を止めた。

「そうそう、うちの高校はさ、付属の大学じゃなくてもいろいろと手助けしてくれる制度があるんだよな。試験会場までの交通費支給とか、試験代が免除とか、小難しい名前の……なんとか支援ってのがあるわけよ。確か、えぇっと、県か市のやつだったかな?」

 難しい部分をすっ飛ばし、修一はパンにかぶりついた。

 雪弥は「それ、尾崎理事、もとい尾崎校長が個人で建てた財団だよ」とは言えずに口をつぐんだ。返す言葉も思いつかず紙パックの苺牛乳にストローを差した時、もう一度パンにかぶりつこうと、口を大きく開いた修一が、思い出したように声を掛けてきた。

「考えたらさ、お前いい時期に転入してきたな。皆進学の事で頭がいっぱいだから、転入生騒ぎも数日続かないと思うぜ」
「それは嬉しいな」

 パンにかぶりつく修一を前に、雪弥は乾いた笑みを浮かべた。これ以上若い子が思いつくような話題を続けられるねような言葉も見つからずに、自分もパンの袋を開ける。

 言葉使いを不審がられても困るので、必要以上に話すことは避けたい。そう思いながら口にしたメロンパンは生地が硬く、表面にたっぷりとつけられた砂糖がぼろぼろと落ちて風に飛んでいった。