いざ若い子供たちの中に飛び込んでみると、自分がどれだけ浮いた存在であるのか再認識出来た。一人の大人として、子供たちの中でその存在が目立っているのである。

 教壇に立っている間、彼は込み上げる震えと逃げ出したい衝動を堪えるのに精いっぱいだった。男女合計二十四名が見渡せる場所で、雪弥は強く思った。


 二十四歳が十七、八歳の振りなんて絶対に無理がある、と。


 そのとき、一段と教室が騒がしさを増した。驚く雪弥をよそに、次々に生徒たちが口を開く。

「どこの高校から来たの?」
「すごく綺麗な髪ねぇ」
「部活とかやってた?」
「彼女とか、もういるのか?」

 え、え? …………えぇぇぇええええええ!

 雪弥は驚きを隠せなかった。今にも立ち上がりそうな勢いの若者たちを前に、黒板側へと一歩後ずさる。

 ばれてない! しかも、嬉しいんだか悲しいんだか全然疑われてない!

「はいはい、質問は授業時間以外に……」

 弱々しい咳払いを一つした矢部がぼそぼそと言い、雪弥は我に返って、ぎこちない微笑みを浮かべ直した。今にも引き攣りそうな顔を、どうにか笑みで塗り替える努力をする。

「じゃあ、そうですね……案内役がてら、修一君の後ろに席を用意しましょうかね……」
「よっしゃ!」

 修一は、座ったままガッツポーズをした。一目見て、転入生がまとう自然で穏やかな雰囲気が気に入ったからである。絶対良い友人になるぞ、と修一は動物的勘でそう思っていた。

 まずはどんなスポーツに興味があるのか聞こう、と考えている彼の隣で、暁也はじっと雪弥を観察する。矢部と話している転入生は、普通の学生に見えて「やっぱり遺伝的な髪色なのか……?」と呟き、威嚇するように顔を顰めて腕を組む。


 矢部から「生徒たちへのサプライズで席を用意していなかった」とようやく聞き出せた雪弥は、強い視線を感じて教室の後ろへと目をやり、こちらを凝視する一人の少年に気付いた。


 色が抑えられた赤い短髪に着崩した他校の制服を見て、この教室には不良がいる事を認識した。新参者が来たことに対する不良の行動を予測したとき、つい困惑の表情を浮かべてしまう。

 もし喧嘩を吹っ掛けられたり、リンチされそうになったらどうしよう。

 昔から、自分の力は少々強いらしい、とは分かっている。

 しかし頭では分かっていても、なぜか自動反撃に出てしまうのも少なくはないので、関係もない生徒を病院送りにするわけにはいかないしなぁ、と雪弥は悩んだ。

 その隣で矢部がぼそぼそと指示を出していたが、何人もの生徒たちが主張して来た「聞こえない」という言葉もあって、そばにいた雪弥の耳からも、矢部の声がかき消えてしまった。