暁也は天性の運動派でもあった。前の高校では、陸上競技大会においても優秀な成績を収めていた。それでも常に騒ぎを起こす問題児であったことに変わりはなく、転入早々「クソつまらない連中ばかりしか居やしねぇ」と発言し、喧嘩になった先輩たちを全員病院送りにしたという事件が起こった。それ以来、ある一人の生徒を除いて誰も彼には近寄らないのだ。

 遅刻の常連である暁也が、朝のホームルームが始まる礼前の教室にいることを不思議に思いながらも、生徒たちは細々と会話をして席に戻った。暁也は「ふん」と鼻を鳴らして、蹴り飛ばした机を足で元の位置に引き寄せる。

 暁也も他の生徒たちと同じように、東京からの転入生とあって「少しは骨がある奴が来るのではないか」と小さいながらに期待していた。しかし、話を聞いてその可能性がないことに気付いたのが、彼には面白くなかった。

「まぁまぁ、落ちつけよ、暁也」

 隣の席に座っていた少年が、暁也の苛立ちを気にする様子もなく声を掛けた。芯からスポーツ少年である比嘉(ひが)修一(しゅういち)だ。

 修一はクラスの人気者で、勉強はいまいち出来ないが運動神経はずば抜けていた。受験生になった今年、先週行われた試合を最後にサッカー部を引退し、最近はスポーツ誌を読むことにはまっている。

 というのも、修一はあまりの成績の低さを心配され、両親と教師の判断から、いち早く部活動から卒業させられたのだ。本人も成績結果を受け入れた素振りは見せたものの、「まぁ卒業してもサッカーはするし」とどこか開き直ってもいた。

 一匹狼のような暁也も、修一の事は嫌いではなかった。茉莉海市に引っ越す事に嫌気が差していたが、白鴎学園で修一と出会ってから、ここに暮らして学園に通うことへの感じ方が少し変わった。

 二年生の頃は別々のクラスだったが、三年生で同じクラスになってからは、サボらずほぼ毎日登校することが続いている。体育や課外授業にも参加しなかった暁也が、「俺行くんだけど、お前も行くよな」という修一の一言で参加が決定するパターンも多かった。

 暁也は修一の言葉に鼻を鳴らしただけで、何も答えなかった。修一は不機嫌そうな彼の地顔を真っ直ぐに見つめ、その表情とは裏腹の心情をあっさり見破ったように「お前も、転入生気になるよな」と小麦色の顔に無邪気な笑みを浮かべ、右側の八重歯を覗かせた。

「別に、興味ねぇよ」

 暁也は机に足を乗せ、椅子に背をもたれながら無愛想に答えた。修一はその態度にもこれといって気まずさは見せず、「俺は楽しみだけどなぁ」と言ってスポーツ誌の続きを読み始める。

 修一のおかげで緊張がほぐれた教室に、普段と変わらない音量の会話が戻り始めた。先程と同じ話題だが、馬鹿騒ぎのレベルではない。

「……おい」

 そんな教室の様子を眺めながら、暁也がぶっきらぼうに口を開いて友人を呼んだ。片手で持ってきたパンを器用に引き出しに入れていた修一が、「何?」と答えて振り返る。

「…………読み終わったやつ、貸せ」
「ああ、いいぜ」