そこには白い綺麗な建物をバックに、青い制服を着た生徒たちが並んで映っていた。校内で出回っているらしい覚せい剤とは、全く縁がなさそうな少年少女である。パンフレットをめくっていくと、弾けんばかりの笑顔で映る学生たちの写真が載っていた。

 大半の使用者が大学生であり、高校生の中からもそういった者が出てくる、とナンバー1が語ったことを雪弥は思い出した。

 密輸業者、東京の金融会社と関係を持った学園関係者が、そう簡単に学生に配ることへの利点が雪弥には理解出来ない。覚せい剤よりも、ヘロインをさばいたほうが大金にもなる。

 二つの薬物の件を置いても、大人に配った方が確実に利益に繋がるだろう。学生だと、覚せい剤の存在がばれてしまう可能性もあるからだ。

 報告書に記載されている尾崎の意見によると、ヘロインも覚せい剤も町には出回っていないとの事だった。新しく茉莉海市が出来る前から、学園一帯にはこれまで薬物の検挙例は一つとしてない。これから足りない情報を集めるのは、雪弥の役目である。

 ヘロインと覚せい剤の動き、事の全容究明と共犯者、常用者や使用者の把握。

 外からでは調べられない情報を生徒に紛れ込んで得ると同時に、警視庁が動き出す際ナンバー1から出る指示を待機する……どういった最終決断がくだされるのかは、調べていかないと雪弥にも推測が難しかった。

 犯人を抹殺処分するのか、警視庁との協力体制のもと取り押さえるのか。麻薬に手を染めた人間に関しても法的な処分と治療を施すのか、特殊機関のやりかたで対応するのか、現時点でそれを予想することは出来ない。


「抹殺以外の仕事が僕に回って来ることも滅多にないんだけど……そう考えてみると、厄介な事件になるかもしれないしなぁ…………学園自体が元エージェントのものだから、穏便に行くかどうもか分からないし」


 東京で起こっている事件は、書類を見ても確かにこれまでとは違っていた。

 精密に記憶が改ざんされ、彼らが連れられてきた被害者だと分かった時点で、国は特殊機関に要請を出している。国を脅かす事に発展しかねない事態の全容解明を急ぎ、それを一掃することを国は特殊機関に求めていた。

 白鴎学園に出回っている覚せい剤と、持ちこまれている大量のヘロイン。大量のヘロインだけでも一番重い処罰だが、首謀者たちの目的用途によっては、特殊機関から相応な処置がされるだろう、と雪弥は悟っていた。

 書類にはナンバー1に直属している国家特殊機動部隊暗殺機構の導入案や、一定に集まった標的を閉じ込める、電力発動機器である「鉄壁の檻」を使用する旨が書かれている。それは中の人間を外に出さないためのものであり、突入したエージェントが閉じ込めた標的を皆殺しにする際に使用するものだった。

 警察の介入を許さず、特殊機関が独自に権限を行使する。処分されたことも世には出ない。つまり、もし「鉄壁の檻」が使用されるような決断が下された場合は、ナンバー4にとって珍しくない「殺戮」がここで行われるのだ。