ちょっと待て、と言いかける雪弥の言葉を遮る勢いで、修一はそう語った。雪弥は視線を滑らせたものの、修一の隣でにやりと笑う暁也を見て、彼も同じ考えであるらしいと察して更に言葉を失う。
いったい君たちどうしちゃったの。
そう思ったが喉から声は出てくれなかった。先に暁也が口を開いて、ふふんと鼻を鳴らす。
「俺、親父に負けない刑事になってみせるぜ」
雪弥はわけが分からなくなった。暁也が刑事になるという話は初めて聞く。むしろ、絶対なりたくない職業だったことを思い出していた。
思わず、すぐそこにいた金島に、ちらりと視線を向けた。
「……金島さん、これ、一体どうなってるんです?」
「昨日帰ってから、しばらく修一君と一緒に部屋に閉じこもっていましてね。ようやく夜食に降りてきた時には、すでにこの調子で……。仕事の合間に私と部下たちが様子を見に行っていたのですが、そのたびにいろいろと話をせがまれたほどです」
「はぁ、つまり彼らは寝不足でもある、と…………」
恐らく少しは寝たのかもしれないが、なんとも元気な少年たちである。
エージェントとの仕事は早朝近くまでかかっていたため、金島たちは仕事着のままだった。その話から、修一が暁也の家に泊まった事は分かったが、雪弥は「だから、なんで刑事になりたいといったことに繋がるのか」と首を傾げずにはいられない。
そのとき、雪弥は左右から二人の少年に抱きしめられた。動揺しつつ困惑して「どうしたの」と声を掛けると、肩越しに修一が鼻をすすった。
「……もう、行っちまうのか?」
「……もう、会えねぇのかよ」
いつも自信に溢れていた暁也の声は、囁くような声量で震えていた。
良い子たちだな、と雪弥はそっと彼らの背中に手を回して抱きとめた。
「うん、さよならだ。いろいろとごめんね」
そう親しげに微笑む雪弥を見つめていた阿利宮が、つい金島に尋ねた。
「こうして見ると、昨日の声とは別人に見えますね……」
「私もそう思っていたところだ……」
「そこに、彼の異名の由来があるのですよ」
尾崎がふと口を挟むように囁いた。
「碧眼の殺戮者、として恐怖されている彼は、ペテンともいわれているそうです。まるで同じ人物とは思えないほどの豹変ぶりに、ペテン師と呼ぶ者も少なくはないのだとも聞いています」
大人たちが囁き合う中、修一は溢れる涙を拭っていた。彼は「さよなら、なんて言うなよ、寂しいじゃん」と鼻声で訴えてきて、他の言い方を知らない雪弥は戸惑った。これまで、再会することを前提とした別れをした事がなかったからだ。
さよなら、ではないのだとしたら、一体何と言えばいい?
いったい君たちどうしちゃったの。
そう思ったが喉から声は出てくれなかった。先に暁也が口を開いて、ふふんと鼻を鳴らす。
「俺、親父に負けない刑事になってみせるぜ」
雪弥はわけが分からなくなった。暁也が刑事になるという話は初めて聞く。むしろ、絶対なりたくない職業だったことを思い出していた。
思わず、すぐそこにいた金島に、ちらりと視線を向けた。
「……金島さん、これ、一体どうなってるんです?」
「昨日帰ってから、しばらく修一君と一緒に部屋に閉じこもっていましてね。ようやく夜食に降りてきた時には、すでにこの調子で……。仕事の合間に私と部下たちが様子を見に行っていたのですが、そのたびにいろいろと話をせがまれたほどです」
「はぁ、つまり彼らは寝不足でもある、と…………」
恐らく少しは寝たのかもしれないが、なんとも元気な少年たちである。
エージェントとの仕事は早朝近くまでかかっていたため、金島たちは仕事着のままだった。その話から、修一が暁也の家に泊まった事は分かったが、雪弥は「だから、なんで刑事になりたいといったことに繋がるのか」と首を傾げずにはいられない。
そのとき、雪弥は左右から二人の少年に抱きしめられた。動揺しつつ困惑して「どうしたの」と声を掛けると、肩越しに修一が鼻をすすった。
「……もう、行っちまうのか?」
「……もう、会えねぇのかよ」
いつも自信に溢れていた暁也の声は、囁くような声量で震えていた。
良い子たちだな、と雪弥はそっと彼らの背中に手を回して抱きとめた。
「うん、さよならだ。いろいろとごめんね」
そう親しげに微笑む雪弥を見つめていた阿利宮が、つい金島に尋ねた。
「こうして見ると、昨日の声とは別人に見えますね……」
「私もそう思っていたところだ……」
「そこに、彼の異名の由来があるのですよ」
尾崎がふと口を挟むように囁いた。
「碧眼の殺戮者、として恐怖されている彼は、ペテンともいわれているそうです。まるで同じ人物とは思えないほどの豹変ぶりに、ペテン師と呼ぶ者も少なくはないのだとも聞いています」
大人たちが囁き合う中、修一は溢れる涙を拭っていた。彼は「さよなら、なんて言うなよ、寂しいじゃん」と鼻声で訴えてきて、他の言い方を知らない雪弥は戸惑った。これまで、再会することを前提とした別れをした事がなかったからだ。
さよなら、ではないのだとしたら、一体何と言えばいい?