暁也と修一は昨夜、予定通り県警ヘリで学校から連れ出されていた。操縦士の免許を持っている毅梨が、エージェントの指示を受けてヘリを動かし、乗り込んでいた金島と澤部が二人の少年を自分たちの腕で迎えて、無事に保護したのである。

 現場を直に見た同業関係者なんてどうでもいいんです、と雪弥は他人がきいたら「鬼だ」と言われる台詞をあっさりと言い、少年組の件を強く推すように言葉を続けた。

「暁也と修一は、少なくとも常盤の死体をチラリと見ちゃっているんですよ。殺すところは見えないように配慮したつもりですが、常盤の頭を砕いたのが悪かったなぁと……それに、標的の抹殺を直に見ていないとはいえ、モニター越しにそれを知っているから心配で」
「昨日も聞いた」

 だからどうした、というようにナンバー1は口を挟んだ。彼は興味もなさそうに指輪の光り具合を眺めている。

 雪弥は咳払いを一つすると、言葉を付け足した。

「……それでですね、精神的にものすごく負担を掛けてしまうんじゃないかと――」
「男なんだ、そんな柔(やわ)じゃないだろ」
「あんたは悪魔ですか」

 おいコラ、相手は一般人の少年なんだぞ。

 間髪入れずに断言した上司に、雪弥は「天誅」と言わんばかりに葉巻の先を切り落としてやった。ナンバー1が「お前はまた人様の葉巻を勝手に切断しおって」と悔しそう言ういつもの説教台詞を、彼は涼しげな顔で聞き流した。


 車の往来や人の気配もない道を、雪弥たちを乗せた高級車は信号にかかることもなく進んだ。しばらく黙りこんでいた雪弥は、今頃蒼緋蔵家はどうなっているのだろう、と遅れて思い出し頭を悩ませた。


 込み上げた溜息を堪え切れず、「ねぇ、ナンバー1」と吐息交じりに声を掛ける。返事はなかった。

 雪弥はもう一度言った。

「ねぇ、ナンバー1」
「なんだ」

 上司は車窓を見つめたまま、ぶっきらぼうに口だけで答えた。座り心地の良い座席に身を沈ませた雪弥も、視線を正面に向けたままである。

「…………僕んとこの家族、一体どうなってると思います?」
「知らん」
「あ、ひどい。あんたが休日くれなかったから、こっちは面倒なことになってんのに」
「自分でどうにかしろ」

 私も蒼緋蔵家の長男は苦手なんだ、とナンバー1は声を潜めた。

 蒼慶を知っているような口ぶりが気になり、雪弥は座り直して上司へと視線を向けた。

「兄さんのこと知ってるんですか?」
「さぁな、黙秘権を行使する」
「あ、ずるい」

 そのとき、不意に車が止まった。

 妙だなと思って車窓へ目を向けた雪弥は、辿り着いたこの場所とそこに集う人々に気付いて、ナンバー1を見て苦々しげに顔を歪めた。

「……ナンバー1」
「なんだ」
「いくらあんたの職権乱用がひどくても、これはないでしょう。思いっきり規則違反じゃないですか」

 雪弥は呆れたように眉根を寄せた。

 閑静な住宅街の一軒家には、見知った顔が集まっていた。尾崎、元エージェントで担任の矢部、金島と今事件を担当した七人の捜査員、そして私服の暁也と修一がそこにはいた。

 事件で関わった者たちと任務終了後に会うことは、特別な理由がない限り禁じられているはずだった。