極度まで敏感になった神経は、生きた人間の気配を勝手に探った。学園敷地内には、二人の少年と一人の元エージェントを校舎に残し、あとは倉庫側に集まっている人間で最後だという理解に至った。
駆ける藤村と二人の人間を捉えていた雪弥の碧眼は、侮蔑と憎悪を彷彿とさせる強く冷酷な光を帯びた。
この恨み忘れるものかと血が騒ぐ。月明かりさえも煩わしいほど眩しく、そこに生きる人間が憎くて仕方がなかった。いいようのない殺意が噴き出し、苛立ちに似た感情が身体の中で暴れ狂う。
しかし、それは同時に悦びとなって全身を駆け巡ってもいた。
やつらを殺せるのだ。一人残らず、この首一つになるまで――
わけも分からない強烈な衝動に疑問を抱く間もなく、残されていた冷静な思考能力と理性がぷつりと途切れた。「殺す」ことだけを思った雪弥の長い爪先が、嫌な音をたてて鋭利さを増しながら伸びる。その爪は既に血液が絡みついており、鋭い先端を赤に染めて血を滴らせていた。
そのとき、不意に、右耳にはめていた小型無線マイクが音声を受信した。
『ナンバー4、血に酔い過ぎでは?』
「元ナンバー二十一、お前が何を言っているのか皆目見当もつかん」
雪弥は、まるで古風な言い回しで威圧的に告げた。その美麗な唇は引き上がっており、声には愉快さが滲んでいた。
藤村が倉庫前の人間と合流する様子を、雪弥は、ただひたすら凝視していた。無線で矢部が『ほら、その喋る感じ。話に聞いていた通りですね、ボスからは注意されていましたが――駄目ですよ、暁也と修一が不安がります』と言った言葉も聞かずに、彼は地面を抉るほどの瞬発力で前方に飛んでいた。
地面が強い圧力を受けたように押し潰れ、瓦礫を舞い上げる。その瞬間、彼の身体は砲弾を発射したように地を弾き、宙を直進していた。
「だからッ、奴が来るんだ!」
「藤村さん、少し落ち着――」
駆けてきた藤村は、ひどく動揺していた。どうしたんだ、と富川は訝しがりかけてギョッとした。
黒を纏った人間が、こちらに向かって飛んでくることに気付いたのだ。
鎌のような長い凶器が月明かりに照らし出され、殺気を帯びた碧眼が浮かび上がった。富川が恐怖し「ひぃ」と喉を震わせたとき、尾賀は総毛立って反射的に部下へ怒号していた。
「奴を殺せ!」
ヘロインを運び出していた三人の大男たちが、鞭に打たれたように一斉に駆け出した。彼らは尾賀、富川、藤村の脇を通り過ぎると、それぞれが懐の銃へと手を伸ばす。
重々しい巨体が迅速に動く様は心強く、萎えていた藤村の闘争心を呼び起こした。素早く銃を取り出した尾賀が予備の銃を投げて寄こし「殺すね!」と声を尖らせる声に、それを受け取った藤村は「おう!」と強気に答えて敵へと視線を戻した。しかし、銃も死闘も経験がなかった富川は、懐の銃も取り出せないまま狼狽して後ずさりしてしまう。
そのとき、ぼっと低い響きが一同の鼓膜を打った。
三人の大男の首が、一瞬にして消し飛んでいた。司令塔を失った巨体がぐらりと崩れ落ち、噴水の如く勢いを保ったままの血飛沫が傾度を変えて、辺りを赤黒く染め上げた。
駆ける藤村と二人の人間を捉えていた雪弥の碧眼は、侮蔑と憎悪を彷彿とさせる強く冷酷な光を帯びた。
この恨み忘れるものかと血が騒ぐ。月明かりさえも煩わしいほど眩しく、そこに生きる人間が憎くて仕方がなかった。いいようのない殺意が噴き出し、苛立ちに似た感情が身体の中で暴れ狂う。
しかし、それは同時に悦びとなって全身を駆け巡ってもいた。
やつらを殺せるのだ。一人残らず、この首一つになるまで――
わけも分からない強烈な衝動に疑問を抱く間もなく、残されていた冷静な思考能力と理性がぷつりと途切れた。「殺す」ことだけを思った雪弥の長い爪先が、嫌な音をたてて鋭利さを増しながら伸びる。その爪は既に血液が絡みついており、鋭い先端を赤に染めて血を滴らせていた。
そのとき、不意に、右耳にはめていた小型無線マイクが音声を受信した。
『ナンバー4、血に酔い過ぎでは?』
「元ナンバー二十一、お前が何を言っているのか皆目見当もつかん」
雪弥は、まるで古風な言い回しで威圧的に告げた。その美麗な唇は引き上がっており、声には愉快さが滲んでいた。
藤村が倉庫前の人間と合流する様子を、雪弥は、ただひたすら凝視していた。無線で矢部が『ほら、その喋る感じ。話に聞いていた通りですね、ボスからは注意されていましたが――駄目ですよ、暁也と修一が不安がります』と言った言葉も聞かずに、彼は地面を抉るほどの瞬発力で前方に飛んでいた。
地面が強い圧力を受けたように押し潰れ、瓦礫を舞い上げる。その瞬間、彼の身体は砲弾を発射したように地を弾き、宙を直進していた。
「だからッ、奴が来るんだ!」
「藤村さん、少し落ち着――」
駆けてきた藤村は、ひどく動揺していた。どうしたんだ、と富川は訝しがりかけてギョッとした。
黒を纏った人間が、こちらに向かって飛んでくることに気付いたのだ。
鎌のような長い凶器が月明かりに照らし出され、殺気を帯びた碧眼が浮かび上がった。富川が恐怖し「ひぃ」と喉を震わせたとき、尾賀は総毛立って反射的に部下へ怒号していた。
「奴を殺せ!」
ヘロインを運び出していた三人の大男たちが、鞭に打たれたように一斉に駆け出した。彼らは尾賀、富川、藤村の脇を通り過ぎると、それぞれが懐の銃へと手を伸ばす。
重々しい巨体が迅速に動く様は心強く、萎えていた藤村の闘争心を呼び起こした。素早く銃を取り出した尾賀が予備の銃を投げて寄こし「殺すね!」と声を尖らせる声に、それを受け取った藤村は「おう!」と強気に答えて敵へと視線を戻した。しかし、銃も死闘も経験がなかった富川は、懐の銃も取り出せないまま狼狽して後ずさりしてしまう。
そのとき、ぼっと低い響きが一同の鼓膜を打った。
三人の大男の首が、一瞬にして消し飛んでいた。司令塔を失った巨体がぐらりと崩れ落ち、噴水の如く勢いを保ったままの血飛沫が傾度を変えて、辺りを赤黒く染め上げた。