李のあとを追っていた藤村が、大学校舎から三歩踏み出した先で、李の最期を目撃していた。青年が纏う冷たい気配と狂気に押し潰され、自身が持っていた殺気すら委縮して彼は震え上がっていた。
ここへ出る直前まで、藤村は先程の大学生たちの死にざまに精神が狂いかけ、李を殺すつもりで追い駆けていた。しかし、発砲しようと構えていたその銃は、頭部を失ってふらつく李の首のない身体を前に、情けないほど揺れ動いた。
そんな藤村の目の前で、漆黒の服に身を包んだ青年が、足元がおぼつかないまま未だ地面の上を歩いている李の身体に向かって、無造作に左手を振り上げた。
赤く染まった衣類ごと、李の身体が更にバラバラになる様子を見て、藤村は三十六人の学生たちが惨殺された方法を知った。獣のように五本の凶器を指先から伸ばした彼が、まるで紙をさっくり切るように、あっさりと、を切るたびに、弾かれた肉片がキレイに切断されていたのだ。
死神の鎌を持った、身の内に得体の知れない獰猛な獣を宿した悪魔だと思った。
そう察した瞬間、藤村は悲鳴を上げて逃げ出していた。締まった喉からひゅっと息が漏れ、もつれそうになった足にバランスを崩し掛ける。それでも必死に手足を動かせて体勢を立て直し、藤村は富川たちのいる倉庫へと向かった。
平気な顔で人をバラすなんて、人間が平気で出来ることじゃない。
奴は悪魔だ、化け物だ。怖い、恐ろしい。
藤村は中庭の中央通路へ躍り出ると、息も絶え絶えに「俺をあの化け物から守ってくれ、助けてくれ」と彼らに訴えた。
倉庫前にいた尾賀、富川の二人が振り返ったが、力のない吐息交じりの叫びが届かず「何事だ」と悠長に顔を顰められてしまう。藤村は二丁の銃をすでに放り捨て、自分が殺意を持っていたことすら忘れて仲間に助けを求めていた。
「…………藤村組のリーダー」
死神のように佇む人影が、小さくなっていく後ろ姿を見て、そう言葉を発した。
写真で確認していた「藤村組のリーダー」の姿を認め、雪弥は疼く手先で、転がっていた肉片を更に引き裂いた。藤村が向かう中庭倉庫には、標的リストの主犯格である尾賀と富川の姿もある。
見つけた、というように、彼の瞳孔が更に収縮して碧の冷たい光を放った。
開け放たれた倉庫からは、大柄な肉体を持っただけの人形のような三人の大男たちがヘロインを運び出している。その様子を見物するかのように、鼠のように小さい尾賀と、ずる賢そうな富川が並んで立っていた。
人間がいる、殺すべき人間があと三人残っている。
雪弥は、肉体ばかりが生きている人形には興味がなかった。まるで、自分のテリトリーを犯されるのを嫌う番犬のように、ざわり、と強い殺気を覚えて、ゆっくりと藤村たちのいる方へ向き直る。
ここへ出る直前まで、藤村は先程の大学生たちの死にざまに精神が狂いかけ、李を殺すつもりで追い駆けていた。しかし、発砲しようと構えていたその銃は、頭部を失ってふらつく李の首のない身体を前に、情けないほど揺れ動いた。
そんな藤村の目の前で、漆黒の服に身を包んだ青年が、足元がおぼつかないまま未だ地面の上を歩いている李の身体に向かって、無造作に左手を振り上げた。
赤く染まった衣類ごと、李の身体が更にバラバラになる様子を見て、藤村は三十六人の学生たちが惨殺された方法を知った。獣のように五本の凶器を指先から伸ばした彼が、まるで紙をさっくり切るように、あっさりと、を切るたびに、弾かれた肉片がキレイに切断されていたのだ。
死神の鎌を持った、身の内に得体の知れない獰猛な獣を宿した悪魔だと思った。
そう察した瞬間、藤村は悲鳴を上げて逃げ出していた。締まった喉からひゅっと息が漏れ、もつれそうになった足にバランスを崩し掛ける。それでも必死に手足を動かせて体勢を立て直し、藤村は富川たちのいる倉庫へと向かった。
平気な顔で人をバラすなんて、人間が平気で出来ることじゃない。
奴は悪魔だ、化け物だ。怖い、恐ろしい。
藤村は中庭の中央通路へ躍り出ると、息も絶え絶えに「俺をあの化け物から守ってくれ、助けてくれ」と彼らに訴えた。
倉庫前にいた尾賀、富川の二人が振り返ったが、力のない吐息交じりの叫びが届かず「何事だ」と悠長に顔を顰められてしまう。藤村は二丁の銃をすでに放り捨て、自分が殺意を持っていたことすら忘れて仲間に助けを求めていた。
「…………藤村組のリーダー」
死神のように佇む人影が、小さくなっていく後ろ姿を見て、そう言葉を発した。
写真で確認していた「藤村組のリーダー」の姿を認め、雪弥は疼く手先で、転がっていた肉片を更に引き裂いた。藤村が向かう中庭倉庫には、標的リストの主犯格である尾賀と富川の姿もある。
見つけた、というように、彼の瞳孔が更に収縮して碧の冷たい光を放った。
開け放たれた倉庫からは、大柄な肉体を持っただけの人形のような三人の大男たちがヘロインを運び出している。その様子を見物するかのように、鼠のように小さい尾賀と、ずる賢そうな富川が並んで立っていた。
人間がいる、殺すべき人間があと三人残っている。
雪弥は、肉体ばかりが生きている人形には興味がなかった。まるで、自分のテリトリーを犯されるのを嫌う番犬のように、ざわり、と強い殺気を覚えて、ゆっくりと藤村たちのいる方へ向き直る。