暁也は答える代りに、恐怖を押し殺すと、背後に置かれていた銃を拾い上げた。想像していた以上にひどく重量感があり、テレビで見るように右手に持ち構えると腕が震えた。修一が「大丈夫かよ」と心配したが、暁也はそれを無視して両手に持ち直して立ち上がった。
修一には撃てない、俺が撃たなきゃ。
暁也はずしりと重い銃を、両手でしっかりと持って屋上扉へと向けた。真っ直ぐに扉へと狙いを固定しているはずが、銃口は震えて発砲先が定まらなかった。
「暁也、無理すんなよ。お前、めっちゃ顔色悪――」
「近づいてくる奴、どうなってる?」
前方を睨みつけたまま、暁也は込み上げる恐怖を払いのけるように問う。
早口で問われた修一は、慌てたようにパソコン画面へ目を走らせると、ぎょっとしたように飛び上がった。
「近づいてるッ、今、扉の前だ!」
修一は叫んで、勢いよく暁也を振り返った。
両手で持った銃をぶるぶると震わせた暁也は、緊張で全身を強張らせていた。瞬きもせず見開かれた瞳は、狙いが定まらない銃口から屋上扉を睨みつけている。
重々しい足音が聞こえた次の瞬間、鍵の壊れている扉が乱暴に押し開けられた。
月明かりの下、扉の上に頭部が届きそうなほどの大男が顔を覗かせた。盛りあがった頬骨と窪んだ目尻に、細いサングラスが埋まっている印象すら覚える大きく厳つい顔をしている。
そのとき、男の視点が暁也たちへと定まる前に、鈍い音が空気を切り裂いた。
屋上へと身を乗り出し掛けた男の頭部が、強い衝撃に後頭部を破裂させて、ぐらりと扉の奥に続く闇へ姿を消していった。崩れ落ちた際にそのまま階段を転がり落ちていったのか、転倒音が遠く離れていくのが聞こえた。
呆気に取られて茫然と見つめる先で、扉がぎぃっと金属音を上げて、一人でに静かに閉まった。
「……暁也、お前、撃ったか?」
「撃ってねぇよ!」
それに銃弾はあんなに威力ないはずじゃ、と言い掛けた暁也は、背後で足音を耳にしてギクリと身体を強張らせた。緊張が高まっていた彼は、反射的に振り返りながらそちらへと銃口を向ける。
コンマ二秒遅れで同じように振り返った修一は、暁也と同様、そこにいた男の顔を見てはたと動きを止めた。
「やあ、二人とも。駄目だよ、無害な人間に銃口を向けちゃあ」
撃ち返されても知らないよ、と冗談交じりで相手の男が陽気に笑む。
そこにいたのは、三学年の数学教師であり、暁也や修一のクラスである三年四組の担任、矢部だった。普段は前髪でもっさりとしている目元も、後ろに撫で上げられて、そこから明るい茶色をした活気溢れる目が覗いている。
彼の手には、スコープ付きの長い銃があった。その銃口にはサイレンサーらしき黒い筒が設置され、服装は昼間暁也たちが見たときと同じだった。違うことは、肩に鞄を掛けていることだろうか。
「え、矢部先生?」
どうして、と続けようとした修一に構わず、暁也は銃口を向けたまま「敵か?」と鋭く問うた。教師にも共犯者がいると知っていたからである。
修一には撃てない、俺が撃たなきゃ。
暁也はずしりと重い銃を、両手でしっかりと持って屋上扉へと向けた。真っ直ぐに扉へと狙いを固定しているはずが、銃口は震えて発砲先が定まらなかった。
「暁也、無理すんなよ。お前、めっちゃ顔色悪――」
「近づいてくる奴、どうなってる?」
前方を睨みつけたまま、暁也は込み上げる恐怖を払いのけるように問う。
早口で問われた修一は、慌てたようにパソコン画面へ目を走らせると、ぎょっとしたように飛び上がった。
「近づいてるッ、今、扉の前だ!」
修一は叫んで、勢いよく暁也を振り返った。
両手で持った銃をぶるぶると震わせた暁也は、緊張で全身を強張らせていた。瞬きもせず見開かれた瞳は、狙いが定まらない銃口から屋上扉を睨みつけている。
重々しい足音が聞こえた次の瞬間、鍵の壊れている扉が乱暴に押し開けられた。
月明かりの下、扉の上に頭部が届きそうなほどの大男が顔を覗かせた。盛りあがった頬骨と窪んだ目尻に、細いサングラスが埋まっている印象すら覚える大きく厳つい顔をしている。
そのとき、男の視点が暁也たちへと定まる前に、鈍い音が空気を切り裂いた。
屋上へと身を乗り出し掛けた男の頭部が、強い衝撃に後頭部を破裂させて、ぐらりと扉の奥に続く闇へ姿を消していった。崩れ落ちた際にそのまま階段を転がり落ちていったのか、転倒音が遠く離れていくのが聞こえた。
呆気に取られて茫然と見つめる先で、扉がぎぃっと金属音を上げて、一人でに静かに閉まった。
「……暁也、お前、撃ったか?」
「撃ってねぇよ!」
それに銃弾はあんなに威力ないはずじゃ、と言い掛けた暁也は、背後で足音を耳にしてギクリと身体を強張らせた。緊張が高まっていた彼は、反射的に振り返りながらそちらへと銃口を向ける。
コンマ二秒遅れで同じように振り返った修一は、暁也と同様、そこにいた男の顔を見てはたと動きを止めた。
「やあ、二人とも。駄目だよ、無害な人間に銃口を向けちゃあ」
撃ち返されても知らないよ、と冗談交じりで相手の男が陽気に笑む。
そこにいたのは、三学年の数学教師であり、暁也や修一のクラスである三年四組の担任、矢部だった。普段は前髪でもっさりとしている目元も、後ろに撫で上げられて、そこから明るい茶色をした活気溢れる目が覗いている。
彼の手には、スコープ付きの長い銃があった。その銃口にはサイレンサーらしき黒い筒が設置され、服装は昼間暁也たちが見たときと同じだった。違うことは、肩に鞄を掛けていることだろうか。
「え、矢部先生?」
どうして、と続けようとした修一に構わず、暁也は銃口を向けたまま「敵か?」と鋭く問うた。教師にも共犯者がいると知っていたからである。