歩きながら彼は、修一からの報告にあった動きが早いという標的について、スーツ男よりもスピードがダントツにあった白衣野郎を思い返し、つい「きっとあいつ等だろうなぁ」と呟いてしまう。自称学者という李の情報を思い出すと、きっと人体実験用の人間を欲しがっているところのメンバーなのだろう。
暗殺者に白衣なんて悪趣味だ、と雪弥はしみじみ思った。殺人を行うとき、返り血が目立つ白い服を着る連中の気が知れない。
つまり、変態だ。
雪弥はそう一言で結論付けた。大きな死体を四つ踏み越えて階段を上る。途中二階フロアから飛び降りてきた白衣の男がいたが、目も向けずに彼の顎下から銃弾を撃ち込んだ。
脳天が吹き飛んだ男の身体がよろけるのを眺め、銃を持っていた右手で軽く払いのける。階段の壁に、男の身体が叩きつけられてめり込み、大砲を打ち込んだような風圧に髪をなびかせる雪弥の隣で、コンクリートが大きく凹んで押し潰れた。
上部に広がる二階フロアから数人の足音を感じ、雪弥は軽々と跳躍して二階へと降り立った。銃を持った右手で舞い上がったネクタイをスーツの中へと戻す際、触れたシャツに赤が染みこんだ。
足音と人の気配に向かって進み始め、雪弥はふと、屋上にいる少年たちが気になった。
無線に出た修一も暁也も強がりを見せていたが、銃の経験は一度もないのだ。身を守るために持たせているとはいえ、初めて手にした武器で人間を撃つことは難しいように思われた。
「……大丈夫かなぁ」
そのとき、不意に無線が繋がった。
『初めまして、ナンバー4。異名スナイパーの元ナンバー二十一です。屋上の子供たちは私にお任せ下さい』
饒舌な口調だった。彼は『今作戦に置いての規律を破ってしまいましたが、お咎めを受けるべきでしょうか』と冗談交じりで、ひどく現場に慣れたように茶化し尋ねてくる。
雪弥は笑いを含んで「いいや」と答えた。
「そちらも元上司の命でも受けているのだろう? こちらとしても助かるよ。二人の子供たちを宜しく、元ナンバー二十一」
『滅相もございません』
紳士口調の流暢な声には、思い当たる人物があった。悟って可笑しくなり、雪弥は一人ふふっと笑みをこぼしてしまう。
なるほどね、と彼が唇の端を引き上げたとき、二学年の教室を突き破った者たちがあった。跳躍するように凄まじい速度でやってくる白衣の男は、一斉にその数を七にまで増やす。天井や壁、ガラス窓や床に四肢を置いて跳躍する姿は、人間とは程遠いものだった。
腕時計は十一時八分を指していた。
雪弥は「やれやれ」と男たちに向き直る。
さて、今度は一般人じゃない相手に腕慣らしと行きますか、と雪弥は銃をコートの下にしまった。白衣の男たちが両手に持ったメスは、窓から差し込む月明かりを受けて鋭利な刃先を光らせている。
迫りくる男たちが、こちら目掛けて飛び込むように一斉に飛び上がる様子を、雪弥は明日の天気を伺うように見つめた。前髪の暗がりに、浮かんだ碧が淡く光る。
それはすうっと瞳孔を細め、残酷な殺戮者の冷たさを纏った。
暗殺者に白衣なんて悪趣味だ、と雪弥はしみじみ思った。殺人を行うとき、返り血が目立つ白い服を着る連中の気が知れない。
つまり、変態だ。
雪弥はそう一言で結論付けた。大きな死体を四つ踏み越えて階段を上る。途中二階フロアから飛び降りてきた白衣の男がいたが、目も向けずに彼の顎下から銃弾を撃ち込んだ。
脳天が吹き飛んだ男の身体がよろけるのを眺め、銃を持っていた右手で軽く払いのける。階段の壁に、男の身体が叩きつけられてめり込み、大砲を打ち込んだような風圧に髪をなびかせる雪弥の隣で、コンクリートが大きく凹んで押し潰れた。
上部に広がる二階フロアから数人の足音を感じ、雪弥は軽々と跳躍して二階へと降り立った。銃を持った右手で舞い上がったネクタイをスーツの中へと戻す際、触れたシャツに赤が染みこんだ。
足音と人の気配に向かって進み始め、雪弥はふと、屋上にいる少年たちが気になった。
無線に出た修一も暁也も強がりを見せていたが、銃の経験は一度もないのだ。身を守るために持たせているとはいえ、初めて手にした武器で人間を撃つことは難しいように思われた。
「……大丈夫かなぁ」
そのとき、不意に無線が繋がった。
『初めまして、ナンバー4。異名スナイパーの元ナンバー二十一です。屋上の子供たちは私にお任せ下さい』
饒舌な口調だった。彼は『今作戦に置いての規律を破ってしまいましたが、お咎めを受けるべきでしょうか』と冗談交じりで、ひどく現場に慣れたように茶化し尋ねてくる。
雪弥は笑いを含んで「いいや」と答えた。
「そちらも元上司の命でも受けているのだろう? こちらとしても助かるよ。二人の子供たちを宜しく、元ナンバー二十一」
『滅相もございません』
紳士口調の流暢な声には、思い当たる人物があった。悟って可笑しくなり、雪弥は一人ふふっと笑みをこぼしてしまう。
なるほどね、と彼が唇の端を引き上げたとき、二学年の教室を突き破った者たちがあった。跳躍するように凄まじい速度でやってくる白衣の男は、一斉にその数を七にまで増やす。天井や壁、ガラス窓や床に四肢を置いて跳躍する姿は、人間とは程遠いものだった。
腕時計は十一時八分を指していた。
雪弥は「やれやれ」と男たちに向き直る。
さて、今度は一般人じゃない相手に腕慣らしと行きますか、と雪弥は銃をコートの下にしまった。白衣の男たちが両手に持ったメスは、窓から差し込む月明かりを受けて鋭利な刃先を光らせている。
迫りくる男たちが、こちら目掛けて飛び込むように一斉に飛び上がる様子を、雪弥は明日の天気を伺うように見つめた。前髪の暗がりに、浮かんだ碧が淡く光る。
それはすうっと瞳孔を細め、残酷な殺戮者の冷たさを纏った。