蒼緋蔵家長男からの着信を取ったことに後悔を覚えながら、雪弥は引き攣りかけた口元から、諦めたように力を抜いた。その間にも、人体改造を受けているサングラスの男が二人、銃口を向けて奥から飛び出してきた。

 雪弥は先に発砲された一発をひらりとかわすと、取り出した銃の引き金を二回引いた。額の中心を撃ち抜かれた男たちは、やはり悲鳴一つ上げることなくどさりと床に倒れ込む。

 やはり生きた人形みたいだ、と思いつつ、雪弥は溜息をもらした。

「あのね、兄さん。僕は今仕事中でして――」
『貴様の意見など聞いていない』

 またこれかよ。

 雪弥は顔を顰めて携帯電話を離すと、忌々しい声を発するそれを横目に見やった。いっそこのまま切ってしまおうか、と考えながら携帯電話を持ち直そうとしたとき、右耳にはめた無線マイクから暁也の声が響いた。

『雪弥、お前んとこに赤いのが向かってんぞ!』
「ああ、うん、了解」
『誰と話している。貴様はいつもそうやって――』

 雪弥は敵が近づいてくる気配を感じ取り、携帯電話を耳から離した。「また始まったよ」と苦々しげに見降ろす受話器からは、口を挟めないほどのマシンガントークが流れている。

 雪弥はふと、今一番の解決策を思いついた。

 しばらく落ち着けそうにないし、兄さんにはそのまま話させよう。切ったらあとが怖いし、どうせあと数分間は喋り続けるだろう。

 雪弥は、通話中の携帯電話をそのまま胸ポケットに戻した。十数メートル先にある二階へと続く階段から、同じような容姿と体格にさせられた大男たちが下りてくるのが見えて、歩き出しながら、心臓と頭部に狙いを定めて銃を連射した。


 何人いるかなんて数えなかった。降りてくる数だけ引き金を引き続けていると、銃弾が半分以下になった低度で動く反応が階段から消えた。


 なんだ、案外少ないな。雪弥は歩き出しながら、右耳にそっと触れた。

「そっちはどう?」
『屋上口は平気さ。ただ三階に数が集まっているっつうか……』
『二階の奴らは動きが早くって、三階はとろいって感じ! えっと、その、だから俺らは大丈夫! 武器だってあるし、いざとなったら自分の身は守れるからさ』

 修一の陽気な声は掠れていた。しかし、すぐに暁也がトランシーバーを奪い取って『おい』と続ける。

『お前の方こそ、怪我したら承知しねぇぞ』

 ふと、その声が柔らかく耳をついた。

 雪弥は、何故かすぐに答えられなくて、少しの間を置いたあと、ただ「うん」と答えて手を離した。