雪弥は月明かりに照らし出される廊下を、高等部校舎に向かって歩いていた。
数分前、雪弥は暁也たちを屋上へと向かわせた直後、屋上でノートパソコンを立ち上げられてしまう前にと、大学校舎に素早く移動して学生が集められている部屋を探した。そして、夜目に眩しい室内に集って馬鹿騒ぎする大学生たちを全員殺してきたのだ。
教室で覚せい剤を使用していた生徒たちは、その場で皆殺しだった。半狂乱になって暴れ始める若者が現れても、雪弥は躊躇しなかった。
身体能力が上がり始めた人間については、力に自惚れた自信と攻撃性を肉体ごと叩き潰した。出だしで数発の銃弾を使用していたが、隠しナイフもコート内側に並んだままだった。ほとんどの学生を、彼は自身の手で殺した。
三十六名か、と、雪弥は殺した学生の数を口にした。
たった数分の出来事である。それでも、彼の呼吸は少しも乱れてはいなかった。
殺戮を終えた直後に彼が考えていたことは、屋上へと辿り着いた暁也と修一には、広がった血溜まりの熱で死体の様子がぼやかせてくれているだろうか、といった事だった。
先程手を洗っているとき、暁也から屋上へついたとの無線が入って『こっちの校舎にいっぱい入ってきてる』と連絡を受け、雪弥は今、その足で高等部校舎へと向かっていた。
手にべっとりとついた血は水道で洗われていたが、スーツ奥にある白シャツには、まだ乾いていない返り血が染み付いていた。
研ぎ澄まされた五感で、高等部校舎に人の気配が集まるのは感じていた。連絡を受けても驚きはなかったのだが、続いて少年組の声が聞こえたとき、自分が高等部校舎の屋上へ標的を向かわせないようにしなければいけない事を遅れて思い出した。
『なんか、こっちの校舎にいっぱい入ってきてんだけど!』
「落ち着いて。――距離は?」
『一階の裏口ッ』
屋上との距離はまだまだあったが、心が急くと足取りも自然と早くなった。
雪弥は手っ取り早く、高等部と隣接する大学校舎一階の職員室の壁を拳で打ち砕いて進んだ。好きにしてくれて構わないと許可をもらっていたので、このような急ぎの用だと思えば、校舎を破壊することにも躊躇を覚えなかった。
「暁也、修一、君たちのいる校舎に入ったよ」
君たちのところは大丈夫、と耳にはめた小型無線マイクのボタンを押して続けながら、雪弥は両肩に掛かった瓦礫を払った。
大学の職員室と並んでいたらしい保健室の破壊具合を今一度眺め、ちょっと冷静になって考えてみたところで、これ以上壊さないようにしようと心に決めて歩き出す。
『な、なぁ雪弥? 俺、修一だけど…………お前さ、今どっからうちの校舎に入――』
「標的は僕の位置からどのあたりかな」
雪弥は、さりげなく話しを遮って保健室から出た。がらんとした職員室前を機敏な足取りで通過する。
『え、ああっと、そこから一年の教室沿いに三に――三つが一番近い!』
「了解」
修一があえて「三人」ではなく「三つ」と数え直したことを、雪弥は何も尋ねなかった。無線機越しに再度「辛かったら見ないでも構わないから、自分たちが危険になったら必ず言うんだよ」と囁いたが、それに関して暁也と修一から応答はなかった。
数分前、雪弥は暁也たちを屋上へと向かわせた直後、屋上でノートパソコンを立ち上げられてしまう前にと、大学校舎に素早く移動して学生が集められている部屋を探した。そして、夜目に眩しい室内に集って馬鹿騒ぎする大学生たちを全員殺してきたのだ。
教室で覚せい剤を使用していた生徒たちは、その場で皆殺しだった。半狂乱になって暴れ始める若者が現れても、雪弥は躊躇しなかった。
身体能力が上がり始めた人間については、力に自惚れた自信と攻撃性を肉体ごと叩き潰した。出だしで数発の銃弾を使用していたが、隠しナイフもコート内側に並んだままだった。ほとんどの学生を、彼は自身の手で殺した。
三十六名か、と、雪弥は殺した学生の数を口にした。
たった数分の出来事である。それでも、彼の呼吸は少しも乱れてはいなかった。
殺戮を終えた直後に彼が考えていたことは、屋上へと辿り着いた暁也と修一には、広がった血溜まりの熱で死体の様子がぼやかせてくれているだろうか、といった事だった。
先程手を洗っているとき、暁也から屋上へついたとの無線が入って『こっちの校舎にいっぱい入ってきてる』と連絡を受け、雪弥は今、その足で高等部校舎へと向かっていた。
手にべっとりとついた血は水道で洗われていたが、スーツ奥にある白シャツには、まだ乾いていない返り血が染み付いていた。
研ぎ澄まされた五感で、高等部校舎に人の気配が集まるのは感じていた。連絡を受けても驚きはなかったのだが、続いて少年組の声が聞こえたとき、自分が高等部校舎の屋上へ標的を向かわせないようにしなければいけない事を遅れて思い出した。
『なんか、こっちの校舎にいっぱい入ってきてんだけど!』
「落ち着いて。――距離は?」
『一階の裏口ッ』
屋上との距離はまだまだあったが、心が急くと足取りも自然と早くなった。
雪弥は手っ取り早く、高等部と隣接する大学校舎一階の職員室の壁を拳で打ち砕いて進んだ。好きにしてくれて構わないと許可をもらっていたので、このような急ぎの用だと思えば、校舎を破壊することにも躊躇を覚えなかった。
「暁也、修一、君たちのいる校舎に入ったよ」
君たちのところは大丈夫、と耳にはめた小型無線マイクのボタンを押して続けながら、雪弥は両肩に掛かった瓦礫を払った。
大学の職員室と並んでいたらしい保健室の破壊具合を今一度眺め、ちょっと冷静になって考えてみたところで、これ以上壊さないようにしようと心に決めて歩き出す。
『な、なぁ雪弥? 俺、修一だけど…………お前さ、今どっからうちの校舎に入――』
「標的は僕の位置からどのあたりかな」
雪弥は、さりげなく話しを遮って保健室から出た。がらんとした職員室前を機敏な足取りで通過する。
『え、ああっと、そこから一年の教室沿いに三に――三つが一番近い!』
「了解」
修一があえて「三人」ではなく「三つ」と数え直したことを、雪弥は何も尋ねなかった。無線機越しに再度「辛かったら見ないでも構わないから、自分たちが危険になったら必ず言うんだよ」と囁いたが、それに関して暁也と修一から応答はなかった。