藤村は、一時間前と違う異様な雰囲気に促され、明るい教室の光りが差す廊下先へ目を向けた。廊下に差す教室の明かりは、明るい黄色ではなくなっていた。所々が淡く影って見える。

 一体なんだろうな、と彼が廊下に気をとられていると、後ろにいた李が「なんてことだ!」と突然喚いた。弾かれるように顔を上げた藤村は、走り出した彼を追って明るい教室を見た瞬間に絶句した。


 教室に面する全ての窓ガラスが、血飛沫で真っ赤に染まっていた。

 室内の白い床や壁には大量の血液が飛び散り、死体からは生々しい赤が溢れて血溜まりを広げ続けている。


 開いたままの扉に駆け寄り、李が真っ先に室内へと飛び込んだ。続いて入った藤村は、むせるような強い匂いを充満させた生温かい空気に顔を顰めた。四方に散った血液はまだ乾燥しておらず、むっと立ちこめる生臭さがそこにはあった。

 教室いっぱいに無残な死体が転がっている。

 滴り続ける血は、惨殺されてからまだ時間が経っていないことを物語っていた。逃げ惑って壁際に追い込まれたであろう生徒たちは、そこで頭部を潰され内臓を撒き散らされていた。

 高さのある天井が赤く染まっていることに気付いた藤村は、すぐそばにぼとりと落ちた物を見てぎょっとした。それは、長い頭髪がついた頭蓋骨の一部だった。

 藤村は、吐き気を堪えて辺りを見回した。中央にいる生徒の数人は、彼が見慣れた銃殺死体だった。扉の出入り口そばに転がっていた生徒たちは身体の原型が残っていたが、鋭利な刃物で首の半分がかき切れられている。

 うつ伏せに倒れている男子生徒は、捻じられた首が千切れかった状態でだらしなく舌を出し、忌々しそうな目を藤村に向けていた。それと目が合ってしまい、彼は喉から混み上がり掛けた悲鳴を咄嗟に抑え込むと、中央まで進んだ李を追うように、そろりと足を踏み出した。

 床が足の踏み場もないほど血で染まっている様子を見降ろし、慎重に足を運んだ藤村は途中で「ひっ」と声を上げてしまった。

 服を着たままの四肢が散乱している中、力の入らない足を持ち上げようとして触れてしまった生首が、嫌な音を立ててぐしゃりと分裂したのである。切断面が分からないほど綺麗に切られた女の顔は、額と頬下から切断面が滑り落ちて、脳や肉片をぶちまけた。

 視線を逃がそうとした時、広がった赤い液体の行方を追った藤村は、そこに腹部から切断されている男子生徒の姿を見つけた。床に転がった上体からは内臓が露わになり、倒れこんでいる下半身はばらばらに切り裂かれている。


 藤村は、生々しい殺戮現場に四肢から力が抜け、思わず足を止めてゆっくりと室内を見回した。


 どこもかしこも真っ赤だった。散乱する肉片は誰の物であるのかも分からない。