命令を受けた部下が、その巨体でのそりと倉庫地下に向かうことも確認しないまま、尾賀は辺りを見回して更に目を細めた。侵入者の気配を空気から察しようとするかのように集中し、鼻に皺を寄せる様子は、まさに鼠である。

「人の気配はまるでないね。一匹か、二匹か……多くても三人くらいだろうとは思うけどれどね」

 尾賀は今回、十五人の部下を連れていた。大学校舎駐車場に頭を突っ込むトラックに顔を向け、待機させていた残りの十二人に顎で合図を出す。

 はち切れんばかりに分厚い筋肉に覆われた男たちが、従順にトラックの荷台から降りてくるのを見て、富川は眉を潜めた。

「全員、ですか」
「今回は私のだけでなく、李の人員も使わせてもらうね。私の予感が当たっていれば、これはプロの殺し屋に違いないね。ここまでデカイ設備は見たことないがね、ロシアであったウルフマンなんとか、だったか――まぁ噂で聞いたところによると、たった数人の殺し屋が標的を殲滅させるために電気の檻が使われた、とかで持ちきりだったね」
「おいおい、殺し屋かよ」

 藤村が口を尖らせると、尾賀が小馬鹿にしたような顔を上げた。彼は「いいかね、藤村君」と鼻を鳴らしてこう続ける。

「私と李の部下は、君の部下より使えるね。特に李の部下は、よく出来た作りをされているね」

 あの化け物じみた野郎共か、と藤村は内心吐き捨てた。

 今まで倉庫にヘロインを運んでいた李の部下たちは、二メートルの長身に膨らんだ上半身を持った猫背の白衣姿の男たちだった。広い肩と面積のある胸部に対して腰回りがひどく細く、棒きれのような長い手足で二十キロのヘロインを軽々と運んだ。

 全員頭髪はなく青白い。身体の至る所にメスで切られたような傷跡が残り、本来目がついている場所には、暗視カメラが直に埋め込まれている。

 いい儲け話だが、本当に気味が悪いぜ。まぁ、味方なら心強いんだけどよ。

 藤村は体勢を戻すと、銃を握り直した。話し続ける尾賀に背中を向け、白鴎学園の塀を飛び越えてそびえ立つ、重々しい亜鉛色の有刺鉄線を見上げる。

「軍や警察が動いているのなら気配で分かるね、だから見事に気配がない今回は、プロの殺し屋に違いないね。ま、殺し屋であればうちで隠ぺい出来る。私が取引きしているお方も中々有名人だからね、こんなことはしょっちゅうある」

 そのときはいつも私の部下が役に立つね、と尾賀は相変わらず独特の東洋鉛が入ったような口調で言い、飛び出た歯を唇に乗せたまま笑んだ。