それを聞いた修一が、思い出したように「あっ、俺も!」といつもの調子で手を挙げてこう言った。

「家に刑事が来てさ、玄関に立って外に出られなくなったから、下とその下の階のベランダ伝って脱出した」
「お前すげぇな、それって三階からってことだろ?」
「割と簡単だぜ。前までちょくちょくやってたし」

 すっかり自分たちの話しを始めた二人を見て、雪弥は困ったように微笑んだ。 

「うん、ごめんね」

 それ以外の言葉は出て来なかった。刑事を使ってまで家から出すなとは命令していないが、夜狐伝えで、暁也と修一が家にとどまってくれるよう金島本部長に指示したのは確かだ。目の前で常盤を殺してしまったこともあり、雪弥はもう一度「ごめんね」と謝った。

 暁也は「謝んなよ」と視線をそらしかけて、ギクリとした。視界の片隅に映り込んだ廊下に、赤黒い色が浮かんでいる。

 雪弥以外を見ないようにしている修一を見習うように、暁也はすぐ視線を戻した。真っ黒の瞳だった時には違和感を覚えていたが、碧眼だと髪色に対しても不自然さがないなと、改めてまじまじと見つめてしまう。

 そこでようやく、二人が血生臭い現場を見ないようにしているのだと気付いて、雪弥は済まなそうな顔をした。早く場所を移動してもらう方がいいと判断し、スーツケースを開いて見せながら話しを切り出す。

「僕は耳に小型無線マイクをはめている、君たちにトランシーバーを渡しておくから、何かあればこれでやりとりしよう」

 スーツケースには、トランシーバーの他にノートパソコンも入っていた。しかし、暁也と修一はそこに一緒に入っていた黒い装飾銃を見付けて、つい顔を強張らせてしまった。

 二人からやりきれない想いを察知した雪弥は、「やれやれ」と息をついた。護身用にと初心者でも扱える銃を用意したつもりだったが、自衛させるのは難しいらしいと判断する。

 ならば、もしもの場合を考えて、自分が同時に彼らの安全を把握し守れるような線でいこう。雪弥は数秒で考えをまとめると、彼らが素直に従ってくれそうな提案内容に切り替えた。

「――じゃあ、少しだけ僕に協力してもらおうかな。君たちは、敵の位置情報を屋上から伝えるんだ」