どうやら修一のおかげで、暁也は普段の気力と調子を取り戻しつつあるようだ。話をややこしくしないためだろうと察して、雪弥は賢くて強い子だと、わずかに頬を緩めた。修一からも、必死に問題と向き合おうとしている姿勢が窺える。

 悠長にしている時間はないのも確かだ。

 既に学園は封鎖されてしまったのだから、『檻』の存在に気付いた敵も動き出してくる。雪弥は思案しながら、少年たちに向き直った。

「白鴎学園は完全に封鎖された。何者も終わるまで敷地内から出ることは許されない。君たちが入ってしまったのは計算外だけど、僕は集まった犯罪者を一掃するために、ここにいる」

 常盤もその一人だった、と雪弥は声を控えめに続けた。

 次々と思い浮かぶ疑問を口にしようとしていた少年組は、一掃、という言葉の意味を半ば悟ったかのように口をつぐんだ。しばし暁也と見つめ合った後、修一が恐る恐る「それって、常盤みたいに……?」と尋ねてきたので、雪弥は頷き返してみせた。

「詳細を教えることはできないけれど、警察とは違う『専門機関』がこの事件を受け持った。僕はその機関から寄越されて、学生の振りをしていた――。君たちには酷かもしれないけど、でも今度はちゃんと従って欲しい。ここは戦場になる。きっと一番安全なのは屋上だから、大人しくそこで待っていて」

 語り聞かせる雪弥の顔は、どこか幼い子供に諭すようでもあった。

 でも、と修一がうろたえた。思わず言葉が途切れた彼に視線を寄越されて、暁也が前に進み出て代わりに口を開いた。

「つまり、ここで犯罪的な取引が行われようとしているのは事実で、それは親父たちの手にも負えない事件ってことか?」
「そうだね。ここで放っておくと、もっとたくさんの民間人が被害に遭う危険性がある」
「…………というか、お前もしかして、俺たちが立ち聞きしてたの知ってたのか?」

 暁也は、事件についてはこれ以上追及するのを聡くやめ、質問しても問題なさそうだと判断した話題を放り込んだ。思い出すと若干苛立ちも込み上げて、不服そうに腕を組む。

「俺、おかげで二階の窓から脱走したんだけど?」

 自分の家なのに泥棒になった気分だった、と暁也は不満だった。