「仲間も皆持ってるんだ。あとで雪弥にも一つあげるよ」
「それは嬉しいね。で、撃ったことはあるの?」
「あるよ。まだ人間に試したことはないけどね」

 常盤は笑みを歪ませた。向かい合う雪弥は邪気のない表情を浮かべ、彼の手にある銃をしげしげと眺めている。しかし、その横顔は見慣れた物を見下ろすように、どこか冷ややかだった。

「……なんか雪弥、変じゃね?」

 修一は、隣の友人に聞こえる声量でこっそり呟いた。二回目となる私服姿の雪弥をまじまじと見て、やはり理由は分からないが違和感がある、というような顔で眉を顰める。親しさの窺える二人の様子を眺めていた暁也も、考えるように間を置いて「俺もそう思う」と小さな声で相槌を打った。

 雪弥はこちらも見ず、常盤の意見や考えに賛同するようにも聞こえる言葉を返し、話し続けていた。まるで知らない転入生がそこに立っているようにも感じる。

 そもそも、常盤が渡した麻薬を、彼は本当に試したのか?

 嘘を吐いているようにも見えないくらい自然体だったから、暁也と修一は、真っ向からそれを否定できず困惑した。この状況が理解出来ない。雪弥自身に問いただそうにも、いつものように話しかけられない疎外感を覚えていた。

「雪弥、俺は残虐非道の悪党になるのが夢なんだ」

 右手の銃を持ち上げ、常盤が嬉しそうに切り出した。早口になりかけた語尾を緩め、自身を落ち着かせるように二、三度慌ただしく呼吸を繰り返すと乾いた唇を舐める。

「冷酷で残忍な人間は、残虐な行為を賢く楽しむべきだろ? 押し付けられるルールも法律も、悪行を楽しむ特権を持っている俺たちを止めることなんて出来ないよ。俺は酒も麻薬も女もやってるけど、それだけじゃ物足りない。お前と同じ高みに立ちたいんだ」

 何もかもぶち壊すくらいの事をやって、自分の手でも人間を殺めてみたい、と常盤は銃に目を落とした。

 そのとき、その隙にとばかりに、雪弥が目だけをちらりと向けてきた。

 その眼差しは含みがあるようでもあり、こちらの様子や動きをただチェックしているという感じでもあって、心情や思考といったことを読み取ることは出来なかった。何しろ、彼はずっときょとんとした無害な表情をしていて、常盤と犯罪の話をしていることが不思議なくらい落ち着いていたからだ。

 暁也と修一が訝しむ中、雪弥の視線がそのまま常盤へと戻る。


「あの二人は殺さないの?」


 唐突に、常盤の話しを遮るように雪弥がそう尋ねた。