「午後十一時前か……そろそろ雪弥も来るよね、早く来ないかなぁ。いろいろと事が始まっちゃう前に見せてあげたいのに」

 瞳孔の開いた瞳が、くすくすと笑って「暇だなぁ」と暁也たちの方へ滑った。彼から放たれる異様な空気に当てられ、身体を強張らせる修一をかばうように暁也が後退する。

 常盤はまるで、恋人を待つかのように雪弥の名を口にしている気がした。これまで接点もなかったはずだが、と、だからこそ暁也と修一は、困惑せずにはいられなかった。

 常盤はそんな二人を尻目に、前触れもなく無邪気な表情を浮かべて話しを切り出す。

「こう言ったら驚く? この学校に大量のヘロインがあって、それが今日莫大な金になるってこと。それともさ、大学校舎で覚せい剤乱用パーティーが起こってる方が驚くかな――ああ、それとも、銃を持ってる俺の仲間がたくさん集まっているほうが新鮮?」

 こんな風に、と常盤は続けた。膨らんだブレザーの下から、重量感を思わせる黒い光沢の銃を取り出す。暁也と修一が息を呑むと、常盤は恍惚の表情を浮かべた。

 暁也は忌々しげに奥歯を噛みあわせ、ようやく声を絞り出した。

「……お前、いったい何がしたいんだ?」
「大きな事を。誰もが驚いて恐怖するような、そんなことだよ」

 常盤は即答した。床に足を降ろすと、ゆっくりと歩き出す。彼は鼻歌を歌いながら、狭い室内を左右に行ったり来たりした。時々扉から廊下を覗きこんでは、銃を持っていた右手を意味もなく前後に揺らす。

 暁也と修一は、一度に大量の情報が入ってきたことによって混乱していた。大量のヘロインと聞いて、すぐ暁也が思い浮かべたことは「取引」である。

 ヤクザ紛いの男たちがいて、共犯である教師がいて、学生の常盤でさえ銃が与えられている。そして、学園内に大量のヘロインが保管されている。入ってきたトラックはそのヘロインの買い手か、売り手だろう。

 どうやら冗談抜きでヤバイくらいの大ごとらしい。

 暁也は、どうにか冷静に思考を巡らせた。スポーツと刑事ドラマ観賞が趣味の修一も、暁也と同じことを思い至ったような表情を浮かべていた。お互い声を合わせたわけでもなく視線を絡め、緊張気味に声を落とす。

「……暁也、俺たちマジでやばいかも」
「……ああ」

 暁也は低く答えた。

 父が関わっている事件なのだろうか。いや、その前に警察はこのことを知っているのか?

 強い動揺が思索を邪魔した。雪弥と常盤の関係性を先に推測するが、全く分からない。修一は「薬物を押し付けただけなのに、なんだか雪弥も仲間みたいな言い方が変だなぁ」と、常盤本人に聞こえないように口ごもった。