修一は、そこでようやく辺りを見回した。遅れて気付いたように、自分たちがいる場所の名を口にする。

「あれ? ここって放送室じゃん……」
「どうやら、俺たち連れ去られたみたいだぜ」
「え、なんで?」

 問われた暁也は、腕を組んで口を一文字に引き結んだ。しばらく考え、「お前、俺らを襲った奴を見たか」と尋ね返す。

 修一は首を傾げつつ、そういえばという顔をして「スキンヘッドを見たような気がする」と鈍痛が走る頭を抱えた。

「常盤の奴、とんでもないのに手を出してたみたいだな」
「ん~……そうかも…………」

 修一は悩ましげに答えたところで、ようやく頭がハッキリしたように目を見開くと、ガバリと頭を上げて暁也を見た。

「……なぁ暁也、俺たちってもしかして、余計なことしたかな?」
「……みたいだな」

 暁也は言葉を濁らせた。

「……気になるのは、なんで俺たちが連れて来られたかだな」

 暁也は身体の違和感がほとんど抜けていることに気付き、立ち上がるとまずは放送室の扉に手を掛けた。引き戸式のそれを開けようとしたが、どんなに力を入れてもびくともしない。

「放送室って、外鍵か?」

 暁也が尋ねると、修一は「俺外から覗いたことあるけど、入ったことないから分かんねぇ」と首を傾けた。

 暁也は「俺もさ」と顔をそらし、扉に一つだけの窓がある放送室をぐるりと見渡した。室内灯の電源を見つけてスイッチを押してみたが、うんともすんともいわなかった。

 やっぱ、主電源は落ちてんのか。

 暁也は難しい顔をして思案した。足に力が入ることを確認した修一が立ち上がり、ひょいと彼を覗きこむ。

「何考えてんの?」
「いや、放送室って点が気になってな……常盤の他に、もしかしたら学校の教師もグルなんじゃないか? もし俺たちを運んだのが大人の連中ってんなら、手引きしてる奴がいないと学園には入れないだろ。鍵が壊されてる形跡もないし」

 修一は、ひどく感心したように暁也を見た。「お前『走れ、探偵少年』みたいだなぁ」と顔をほころばせる。呆れて見つめ返した暁也は、「お前が言うやつって全部『走れ』シリーズばっかりだな」と肩を落とした。

 修一は「走れ、探偵少年」のことを語ろうと口を開きかけて、ふと思い出したように表情を明らめた。