埃臭い湿った空気に、暁也は鈍い頭痛を覚えながら目を覚ました。

 彼が薄暗さに慣れるまで、しばらく時間を要した。どうにか身体を動かそうと身をよじるが、重心が不安定でくらくらとした眩暈のため自由が利かなかった。

 ここは、どこだ。

 ぼんやりとした月明かりの反射に気付いた頃、ようやく彼の焦点が定まった。室内はひどく狭い。機材が置かれたテーブルと事務椅子、ポスターが立てられたダンボール箱とちぐはぐに物が積まれた鉄の棚。

 そこは、白鴎学園高等部の放送室であった。

 暁也は家を抜け出した先のショッピングセンターで、修一と落ち合ったことを思い出した。ぐらぐら揺れる頭に舌打ちし、鉛のような上体を無理やり起こす。

 狭い室内に目を配ると、ぼんやりと白さが分かる床に、自分以外にもう一人少年の姿があった。背番号の入ったTシャツを着た修一が、力なく横たわっていることに気付いて、暁也は一緒に襲われたのだったと思い出した。

「おい、大丈夫かッ」

 起きろよと続けたが、力の入らない喉から出たのは、自分でも驚くほどか細い声だった。暁也はどうにか修一のそばにつくと、彼を起こしにかかりながら記憶を手繰り寄せた。


 それぞれ家を抜け出して合流した暁也と修一は、ショッピングセンターから白鴎学園向けの路地を歩いていた。後ろで車が止まる音がし、慌ただしい二つの足音に気付いたとき背中に衝撃が走ったのだ。

 倒れ込む直前乱暴に襟首を引き寄せられ、口にハンカチを当てられた。必死に抵抗しながら修一を助けようと視線を向けた暁也は、グレーのスーツを着た男の後ろに常盤の姿を見ていた。彼の記憶は、そこでぷつりと途切れている。


「くそッ」

 一体何がどうなってんだよ、と暁也は忌々しげに口ごもった。

 鈍くなっていた身体の感覚が戻ってきたので、今度はもっと強く修一の身体を揺すった。すると、修一が重そうに瞼を押し上げた。ぼんやりとした瞳を暁也に向け、寝ぼけた声を上げながら目を凝らす。

「おい、修一。大丈夫か?」
「……大丈夫って……何が…………?」

 のそりと上体を起こすと、修一はふと顔を顰めて後頭部に手をやった。「頭痛ぇ、寝過ぎ?」と呟く彼に、暁也は「馬鹿野郎、周り見てみろよ」と声を潜めてそう言った。