咎める気配のない冷静な声を掛けられたが、金島は不安と怒りに震えていた。電話の相手の存在も構わずに「あの馬鹿ガキどもが!」と罵倒する。白鴎学園はこれから戦場になるんだ! よりによってどうして外に――

『保険としての人質ということも推測されます』

 可能性はゼロではない。金島は、自分が「本部長」の肩書を持っている事を思えば完全には否定することも出来なかった。 

 とはいえ、二人が学園に連れ去られたというのは全くの予想外だった。金島らは夕刻、「夜狐」というネームを持った狐面のエージェントに、暁也と修一を出来れば部屋から出さず、忠告もしておくようにと指示を受けた。念のため、金島はそこに茉莉海警察署の捜査員も置いたのだ。

 数刻前の出来事を思い返し、澤部は内田の隣でこう言った。

「俺が会った『比嘉修一』は、警察の話をきちんと聞いてくれそうな奴だったけど、とんだクソガキだったんだなぁ……」
「反抗期の金島ジュニアが発端じゃないすか?」

 澤部が言って、内田が当然のように相槌を打つ。彼らよりも年次が低い阿利宮の三人の部下がフォローを入れる前に、毅梨が「空気を読めッ、お前ら金島本部長の息子さんになんて物言いを」と怒鳴り掛けて、ハッと息を潜めた。

 前置きの台詞は普段のように軽かったが、金島を見つめる澤部と内田の横顔は、緊迫した真剣さを帯びていた。

「「その場にいるからといって、殺しの対象に入るなんて事はねぇっすよね?」」

 尋ねる内田と澤部の声が重なった。わざと電話の向こうの人物に聞こえるような声量でハッキリと述べた後、内田は続けて「そんなんじゃただの大量虐殺だ」と金島が持つ携帯電話の相手を思って一瞥する。澤部も気にくわない様子で、煙草をくわえ直して火をつけた。

 蒼白で振り返る金島の携帯電話から、『ふふふ』と笑いが上がった。

『僕たちは、国民を守るための組織です。無駄な殺生、虐殺や殺戮はしません』

 感情の見えない冷たい声が響き、内田と澤部が疑い深く顔を見合わせる。

 金島が「部下の非礼を」と言い掛けたが、その言葉は『ねぇ、ミスター金島』と柔らかく遮られた。まるで先程とは別人と思えてしまうほど、人情味溢れる青年の声を聞いて、金島は出鼻をくじかれたように口を閉じた。

『心配しないで。僕が二人を助けて、守るから』

 作戦の内容を聞いているでしょう、と声は続けた。金島は、たびたびナンバー4の一人称が、年頃の青年らしいものに変わっていることに気付かされ、数秒遅れて「はい」と答えた。