違法薬物取り締まりに乗り出していた茉莉海署組織犯罪対策課を含む捜査員たちは、高知市からやってきたと伝えられている藤村組に、警戒の色を隠せなかった。容疑者が銃を所有しているということもあり、突入に備える人員は防弾チョッキと銃を携帯し、現場待機している金島の号令を待っていた。

「……今回の事件の容疑者として片づけるってことは、ここに残ってるメンバーは殺されないですむってことっすよね?」

 藤村組事務所の様子を伺う澤部の隣で、内田が独り言のようにぼやいた。

 隣接する建物の裏手に、高知県警察に所属する七人が使用する車が二台停められていた。指示が来ればいつでも飛び出せるよう、事務所に車が入るのを確認したあと、金島らは車の影に身を潜めるようにそこで待機していたのだ。


 先程外で見張りに立っていた時、白鴎学園に集まった人間は全て抹殺処分する、との内容が一同に改めて伝えられていた。声を掛けられて初めて、自分たちの後ろに人間が立っていることに気付いたのだが、そこには白い面と伸縮性の真黒な服で身を包んだ、感情の起伏を感じない気配を漂わせた人間がいた。

 彼は、暗殺部隊の者だと金島らにいった。薄暗がりに浮かぶ白い子狐の面をかぶっていたのは、とても線の細い少年だった。自分の息子よりも背丈の低いエージェントに、金島は一瞬言葉が見つからなかった。

「総本部より、容疑者および関係者の抹殺処分が決定。これより学園で起こる作戦について、ナンバー4が終了を告げるまで警察の関与は認められない」

 声変わりをしていないのではないか、と思うほど澄んだアルトだった。「全員殺す気か!」と澤部は食いついたが、少年エージェントは静かに告げた。

「国家を脅かすテロと認定。ブルードリームの製造法、および取り扱う組織の一掃。取引の商品として使用される新型ブルードリームの摂取者は、鴨津原同様の発症を起こす可能性を視野に処分することが決定しています」

 ブルードリーム、レッドドリームについて教えられていた金島たちは、すぐに返す言葉が浮かばなかった。

 映像記録や写真付きの報告書を見せられた中で、ブルードリームを摂取していた大学生が、二人の人間を殺めたことは事実だった。鉄の塊で打たれたような死体は、二体とも顔の原型が残らないほどぐちゃぐちゃになっていた。まるで化け物のような死体映像が、里久という青年だったと聞かされても、一同はすぐ受け入れることが出来なかったほどだ。