「お前、放送室で待ち合わせだろう? ついでに、そいつのことも任せていいか」

 でも殺すなよ、と富川は薄い唇を引き上げた。うわずる声を潜め、出かけた含み笑いを喉元に押しとどめる。

 今夜は藤村から銃を渡されている常盤の内に潜む残酷性が、これからやってくるという殺人鬼と会うことで更に殺気立つことを想定すると、ここはしっかり念を押して告げておかなければならないと思った。

「お前が引き入れようとしている人間も、殺しが出来る者だと聞いているが、そいつにだろうと本部長の子は殺させるなよ」
『分かってるよ、俺もそこまで馬鹿じゃない』

 答える常盤の声は楽しげだったが、彼はふと声色を落とした。

『……富川学長、暁也のそばにクラスメイトがオマケとしてついているけど、どうする? 裏手だし、今はグッドタイミングで人通りもないんだけど』

 もし実行に移すのなら、この機会を逃したくない、というニュアンスで常盤が尋ねてくる。

 富川は「ふむ」と渋ったが、すでに答えは決まっていた。どうやら本当に運が味方しているようだと思い、二人の学生が歩く路地にほくそ笑む。その間、常盤が『学校方面だけど、本当に人の気配がない。藤村さんと掛須さんも今なら簡単に出来るっていってる』と言った。

「オマケの学生も一緒に連れて来い。使えそうであれば、尾賀さんに頼んで洗脳するとしよう。使えそうになかったら、お前が好きに処分していい。あと始末は尾賀さんがやってくれる」
『オーケー、連れてくる』

 富川と同様、常盤の声も上機嫌だった。悪行に悦んでいるのだろう、と富川は満足げに通話を切った。再び室内を歩き出し、明美について思案した。一緒に取引を見届けた後のため、すでにホテルのスイートルームを予約していたのである。

 午後十一時といわず、尾賀と李が来たら、先に行かせておくか。

 準備を済ませた明美がホテルで待っている光景を思い、富川は舌先で薄い唇を湿らせた。