仲間に引き入れたい人間がいる、と富川が聞いたのは夕刻時だった。

 高等部校舎から尾崎が出でいったことを確認してずいぶん経った頃、前触れもなく常盤から電話が掛かってきたのだ。尾崎が留守の間に鍵を換えた放送室を使うと告げながら、常盤は興奮気味にまくしたてた。

 富川は大金と女、地位と権力以外には興味がなく「好きにしろ」と許可を出した。彼は今回の取引に対して円滑にサポートしている常盤を、尾賀から紹介された藤村たちよりも買っていた。

 わざと目の前で明美と身体を重ねたことがあったが、常盤は構わずに薬を教え込んだ女子大生を犯し始めた。優等生の皮下に強い悪意を秘めていることを知ってから、富川は常盤をひいきしていた。

 父が国会議員を勤めていた富川は、ろくな学生時代を送ってこなかった。中学生の頃に女と酒に溺れ、高校生になると集団で強姦を楽しんだ。盗撮、暴行、覚せい剤、麻薬に対して抵抗がない姿は、今の常盤と同じであったと富川は思っていた。

 富川は大学を出て教師の職に就いたが、少年を抱く楽しみも覚えていた。その行為は止まらず、性欲のためなら対象は少年少女と問わなかった。成長段階の子供から大人まで幅広く、ベッドで少年同士が戯れる様子を眺めて興奮することが一番のお気に入りだった。

 暴力団が経営していた売春店は、金を出せば富川の欲求をすべて満たしてくれた。常連となっていた富川は、そこで佐々木原という店主と顔見知りになり、彼の雇い主だった榎林と面識を持った。性癖が似ていた二人はすぐ意気投合し、共に肉欲を楽しむ仲となった。

 それから十二年の歳月が流れた今年の五月、富川は榎林の紹介で尾賀と出会った。大金と共に女と権力がついてくる榎林の誘いは魅力的だったが、尾賀とビジネスをすることに富川は賛成できなかった。高知市で顔を合わせた尾賀の、他人を見下す態度や物言いがひどく鼻についたのだ。

「部下として藤村組を用意してあるので、対応は彼らに任せたらいい」

 そう榎林に提案されたが、富川は渋った。尾賀と顔を会わせた二十分間、早口で一方的に自慢話やうんちくを聞かされて、彼はうんざりしていたのだ。傲慢ではあっても、榎林は礼儀を欠かない男だった。自分こそが偉いというような尾賀を、富川は人間的に好きになれなかった。