単純思考でそう思った。ならば何故、新米刑事のような彼が玄関前で、こちらに背を向けて直立不動しているのだろうかといえば分からない。自分は刑事ではないのだから、そんなこと分かるはずないじゃん――というのが修一の感想だった。

 とはいえ理解している事は一つある。

 彼らは事件を追う正義の味方で、だから、ここは素直に従った方がいいのだろう。

 修一は、一般市民の安全性を考慮しているであろう刑事を思って、のそのそと部屋へ引き返した。二十四時間頑張ってるんだもんなぁ、とドラマを思い出して携帯電話を取り出す。

 暁也に「今日は出られそうにないかも」とメールを打とうとしたとき、突然着信が入った。修一が慌てて通話ボタンを押すと、けたたましい音がワンコールも鳴らずにぷつりと切れた。

「うん、俺だけど」
『お前んところに、警察来てるか?』
「暁也のところにも来てるのか?」

 修一は部屋の奥へと自然に足を進めながら、ふと思い出して彼に話を振った。

「なぁなぁ、暁也。お前雪弥のこと何か知ってるか?」

 数秒遅れで暁也が『は?』と怪訝そうな声を上げたが、修一は構わずに「俺さ」と続けた。

「雪弥のこと何も知らないなぁって事に気付いてさ。好きな事とか嫌いな事とか、趣味とか家族の事とか」
『…………そういえば、俺も分からねぇな』

 修一がベランダ前で足を止めたとき、暁也が『そんなことより』と低く囁いた。誰にも聞かれたくないように潜められる声は、痺れを切らしたようにこう続けた。

『お前、大人しく家で待機しようとか思うんじゃねぇぞ。抜け出せ。俺たちにはやらなくちゃいけない事があるんだ。容疑者が逃げてるっつっても、外出歩いてる人間が巻き込まれるなんて、あんま聞いたことねぇだろ』
「お前、まだ雪弥のこと疑ってんの? どうせ常盤の待ちぼうけで終わるって」
『なんだよ、お前は常盤にクスリ止めろっていうんじゃなかったか?』

 そう言われて使命感に似た気力が蘇り、修一の頭にスイッチが入った。

 雪弥は優しくていい奴だ。常盤のことはよく知らないけれど、話し合って悪いことをやめさせられるのなら、それにこした事はない。

 そう考えながら、修一は「うん、そうだよ」と断言した。なんだ暁也も同じ気持ちだったのかと、平和な単純思考で勝手に解釈し、意気揚々と答える。

「勿論そうするに決まってるじゃん」
『よし、その意気だぜ、修一。ひとまずは家を抜け出して合流しよう。学校行くまでに色々と話して決めようぜ』


 暁也と会話を終えると、修一は思い立ったら即行動の長所を発揮した。