覚せい剤や麻薬は身体をボロボロにする、やめさせなきゃ。

 修一は常盤も助けるつもりだった。雪弥が同じように薬物に溺れることは考えられなかったが、暁也が「もしもの事を考えると」といつになく食らいついてきたので、今夜学校へ行くことを決めていた。雪弥が常盤と顔を合わせる前に、暁也と修一で乗り込む作戦である。

「雪弥は頭良いもん。薬で成績上げようとか、絶対思わないって」

 今夜の作戦は、雪弥が夜の学校で常盤に会うことが前提で計画立てられていた。修一には、雪弥がわさわざ薬物の件で夜の学校に忍び込むとも想像できなかったから、そこにはやや不満を覚えていた。


 しかし、もやもやとした嫌な気持ちは、帰宅した際にテーブルに置かれていたハンバーグを見て吹き飛んだ。


 鞄を持ったまま、小さな食卓に駆け寄って本日の夕食メニューを覗きこむ。

 野菜サラダとジャガバター、特大サイズのハンバーグが平皿を三色に彩っていた。置き手紙には「スープは温めて飲むように、冷蔵庫にプリンが入っています」との旨が書かれていた。

「今日は俺の好物ばっかりじゃん!」

 修一は喜んだ。午後六時を過ぎていたので、昼食で膨れていたはずの腹は空腹を覚え始めていた。カラオケ店では飲み物も進まなかったのだから、腹が減るのも当然だ。

 夕飯を作っていった母と、修一は擦れ違いになったようだった。スープもハンバーグもまだ温かかった。野菜たっぷりのスープをどんぶり茶碗に入れ、ご飯は山盛りにしてテーブルに並べた。途中暁也からメールが来たので、返事をして残りを食べ進めた。

 雪弥には友だちとして強い好感を抱いていた。時々見せる年上のような物腰の柔らかさも、穏やかでふわふわとした空気も好きだ。サッカー経験がないことには衝撃を受けたが、彼がふとした時に見せる予想外の騒動も楽しかった。

 なんとなく彼と過ごしたことを振り返り、修一は一人でムフフと笑った。

 体育の授業でサッカーの試合を行ったとき、雪弥にボールを奪われた三組の西田が、今までで一番の間抜け面だったことを思い出す。あの日以来、雪弥がボールを受ける度に、西田が「仕返ししてやる」と走ったが、あっさりとフェイントをかわされ撃沈していた。

 雪弥は面白いやつだ。本人が「内気で人見知り」と語った性格なだけに、彼はクラスメイトと溶け込めないといった様子で静かに席についていることが多い。しかし、修一たちの予想を越える行動力を彼は持っていたのだ。