「つか、常盤どこで薬物を買ったんだろ」
「さぁな、相当遊んでるんなら、知り合いからって口じゃね?」

 しばらく二人は話し合い、夕刻の六時前にようやく結論を出した。

「常盤ってやつもさ、きっとなんか理由があってやってるのかもしれないし、薬物は危ないって教えたらやめてくれるんじゃないかと思うし」
「お前は相変わらず頭の中が平和っつうか……。まぁいいか。あの馬鹿正直は絶対行くだろうから、俺たちで先に常盤の野郎と話をつけるぞ」

 約一時間半の話し合いで、雪弥が放送室に到着する前に、二人で常盤と対峙しようという事が決まった。夜十時過ぎまでに学校に忍び込む作戦である。

             ※※※

 暁也は修一と別れた後、第一住宅街にある自宅へと向かった。

 第一住宅街は茉莉海市の北側に位置しており、一軒家が多く立ち並ぶ高級住宅街である。大通りから真っ直ぐ続く道路は緩やかな坂道に変わり、広い敷地を持った家がずらりと続く。その中腹に佇む、一番広い敷地に建つ三階建ての一軒家が金島家である。

 金島家の部屋数は十あり、美しい庭は専用の庭師が定期的に手入れを行っていた。家は西洋の煉瓦造りで、下の階が一番広く間取りを取られている。二階には広々としたテラスが設けられ、そこを避けるように作られた三階部分に、暁也の部屋と両親の寝室があった。

 自動扉が設置された車庫には、車四台分の駐車スペースが設けられていた。去年自動二輪の免許を取った暁也のCB四百のバイク、母が使っているスタリオンの赤いスポーツカーがある。一台分の間を開けて、父が仕事外で使用しているメルセデス・ベンツのE300もそこにはあった。滑らかな光沢を放つ白い車は、七百八十万円もする高級車だ。

 暁也は家に着くと、台所で料理を作る母を横目に、まずは自分の部屋へと上がった。途中「お帰り、アキ」とリビングから声を掛けられ、足を止めて「ただいま」と柔らかく答える。

 暁也の部屋は家の東側にあり、十五畳分の室内には大きなベッドと勉強机が置かれていた。埋め込みタンスに他の私物をしまっているため、一見するとベッドと机、難しい本が並ぶ本棚ばかりで殺風景だ。

 暁也は、鞄を放り投げてベッドに腰かけた。「違法薬物か」とぼやき、ボリュームのある寝台へそのまま身体を預ける。

 高い天井一面には十二星座の蛍光絵画が張られており、電気を消すと小さなプラネタリウムが視界に広がる仕掛けになっていた。覚せい剤、麻薬と改めて考えたところで、やはり暁也は、常盤に強い嫌悪感を覚えた。夜遅くに雪弥を呼び出す、という手口も気に入らない。

 そのとき不意に、閉まっているはずの学校放送室で待ち合わせということに疑問を覚えた。

「……そもそも、なんで学校なんだ?」