夜の高速道路を、三台の大型トラックが縦に列を成して走行していた。
先頭車両の助手席には、短い手足をした小さな男が腕を組んで座っていた。量の少ない長髪を、和風というよりは中国風と思わせるようなキッチリとした雰囲気で後頭部で一まとめにし、細い目の上の眉も不自然な位置で細く整えられている。
小さな唇からはしまいきれない前歯が細く覗き、その顔立ちの全体的な印象を述べると、まさに「鼠」であった。当人にとって、それは全く嬉しくもない「覚えやすい第一印象」と化して半世紀近くが経っている。
常々鼠顔だと言われて覚えられるその男は、丸咲金融第一支店を任されている尾賀である。
人生の半々を日本と中国で過ごした尾賀は、中国人の父と、日本人の母を持つハーフだった。彼の父は人身売買を行うクラブオーナーで、祖父の代でぐんと大きくなった組織を更に確固たるものにしていた。
尾賀は凛々しい顔立ちの大柄な父に似ることもなく、店で一番人気だった美しい日本人母の面影すら受け継がなかった。父方の曽祖父にそっくりだと言われることが多く、それを聞くたび、尾賀は釈然としない気持ちを覚えた。
尾賀は主に、違法薬物の売買を行ってきた。中国で活動している父の悪名は強く、喧嘩も出来ない成り上がりでありながら、円滑に動くことが出来る立ち場にあった。
父の紹介で夜蜘羅のもとに寄越され、ブラッドクロスの「強化兵」計画を手伝うことになったものの、数年前まではほとんど下っ端のような仕事をしていた。榎林の下で共に動くようになってからようやく評価され、計画の一部を担う幹部として席を与えられた。
ブロッドクロスによってパートナーとして組まされたとはいえ、彼らが関わる大きな仕事や、表向きの経営に関しても榎林を通さなければならず、組織内での立場は若干彼が上でもある。彼があってこそ、尾賀はこの大きな組織の中で今の立場にいられている。
二人がパートナーのように組まされてから、数年が経っていた。
しかし、榎林と尾賀は、互いが腹の底で悪態をつきあう犬猿の仲でもあった。
両者ともに、ひどく自己主張と自己欲が強いのだ。自分が偉いと自負する尾賀は、なぜ榎林のような男が社長の席についているのかも理解出来ないでいた。
ブロッドクロスとほぼ対等の位置にある夜蜘羅の贔屓で、榎林は幹部の席に座っているにすぎない。尾賀はずっとそう考えていたし、夜蜘羅と仕事の話を出来るような人間は、榎林ではなく自分の方であるはずなのにおかしな話だ、と常々強く思っていた。
「取引をしくじるんじゃないぞ、しっかりやってこい」
榎林は、いつも早口で上から物を言う男だった。数刻前、トラックを出発さる準備をしていた際わざわざやってきたかと思うと、そうふてぶてしい物言いで告げてきたときは、いちいち煩い男だなと憤死しそうになった。
先頭車両の助手席には、短い手足をした小さな男が腕を組んで座っていた。量の少ない長髪を、和風というよりは中国風と思わせるようなキッチリとした雰囲気で後頭部で一まとめにし、細い目の上の眉も不自然な位置で細く整えられている。
小さな唇からはしまいきれない前歯が細く覗き、その顔立ちの全体的な印象を述べると、まさに「鼠」であった。当人にとって、それは全く嬉しくもない「覚えやすい第一印象」と化して半世紀近くが経っている。
常々鼠顔だと言われて覚えられるその男は、丸咲金融第一支店を任されている尾賀である。
人生の半々を日本と中国で過ごした尾賀は、中国人の父と、日本人の母を持つハーフだった。彼の父は人身売買を行うクラブオーナーで、祖父の代でぐんと大きくなった組織を更に確固たるものにしていた。
尾賀は凛々しい顔立ちの大柄な父に似ることもなく、店で一番人気だった美しい日本人母の面影すら受け継がなかった。父方の曽祖父にそっくりだと言われることが多く、それを聞くたび、尾賀は釈然としない気持ちを覚えた。
尾賀は主に、違法薬物の売買を行ってきた。中国で活動している父の悪名は強く、喧嘩も出来ない成り上がりでありながら、円滑に動くことが出来る立ち場にあった。
父の紹介で夜蜘羅のもとに寄越され、ブラッドクロスの「強化兵」計画を手伝うことになったものの、数年前まではほとんど下っ端のような仕事をしていた。榎林の下で共に動くようになってからようやく評価され、計画の一部を担う幹部として席を与えられた。
ブロッドクロスによってパートナーとして組まされたとはいえ、彼らが関わる大きな仕事や、表向きの経営に関しても榎林を通さなければならず、組織内での立場は若干彼が上でもある。彼があってこそ、尾賀はこの大きな組織の中で今の立場にいられている。
二人がパートナーのように組まされてから、数年が経っていた。
しかし、榎林と尾賀は、互いが腹の底で悪態をつきあう犬猿の仲でもあった。
両者ともに、ひどく自己主張と自己欲が強いのだ。自分が偉いと自負する尾賀は、なぜ榎林のような男が社長の席についているのかも理解出来ないでいた。
ブロッドクロスとほぼ対等の位置にある夜蜘羅の贔屓で、榎林は幹部の席に座っているにすぎない。尾賀はずっとそう考えていたし、夜蜘羅と仕事の話を出来るような人間は、榎林ではなく自分の方であるはずなのにおかしな話だ、と常々強く思っていた。
「取引をしくじるんじゃないぞ、しっかりやってこい」
榎林は、いつも早口で上から物を言う男だった。数刻前、トラックを出発さる準備をしていた際わざわざやってきたかと思うと、そうふてぶてしい物言いで告げてきたときは、いちいち煩い男だなと憤死しそうになった。