交差点を渡り切ったとき、背の高い男たちが常盤と雪弥の脇を通り過ぎた。彼らは急いだ足取りで交差点へと踏み込んだが、同じように擦れ違ったはずの、夜狐が扮していた里久の姿は出て来なかった。彼はまた、姿と場所を変えたのである。

「ゲーセンの裏手に行こう。あそこなら話しが出来る」
「別に構わないよ」

 君に任せる、というように雪弥は肩をすくめて見せた。

 ゲームセンターは、細い路地を挟んでパチンコ店と隣接していた。数台の車が裏道を通って行くばかりで、そこに人の姿はない。「タイミングが良いな」と呟いた常盤は、運が回ってきたと満足な表情で立ち止まった。

 パチンコ店の裏手に見える電柱に、雪弥は火曜日の夜を重ねていた。店内の裏口から若い従業員が現れ、里久が座り込んでいた場所にゴミ袋を置いて店内へ戻っていく。

「実はさ、俺も悪党なんだ」

 常盤は、唐突にそう切り出した。潜めた声は強く、雪弥が視線を向けると「ごめん、声が大きかったね」と悪びれたように言う。

 この少年は、溢れる言葉のどれを口にしようかと、そわそわとして落ち着きがない様子だった。暁也が毛嫌いしていた常盤の人間性は、悪に憧れる捻じ曲がった心持ちだったらしい。

 雪弥は冷めた感情で「ふうん」とぼやいた。暁也や修一と同じ年頃でありながら、常盤は全く正反対の位置にいることを興味もなく思う。

「学校とか平凡な日常はつまらないだろう? でも、雪弥はラッキーだよ。実はここにも学校にも、悪の巣窟があるんだ」

 悪行が好きに出来る場所、欲しくない?

 そう常盤は笑んだ。顔は高揚に火照り、覗きこんでくる瞳は飢えたハイエナのようだ。

 雪弥は、自分よりも低い位置にある常盤の瞳を見つめた。不意にクスリ、と上品に口元をほころばせると、彼は常盤が一番欲しがっている言葉を推測して口にしてみた。

「欲しいな。そんな場所があるというのなら、ね」

 藤村組か富川側か、と雪弥は冷たい笑みでどちらだろうと考えていた。常盤は興奮したように「俺ヤクザの一味なんだ」と誇らしげに告げ、強くなった声量を意識的に落として辺りを見回す。

 誰もいないことを確認すると、常盤は内緒話をするように雪弥に身を寄せた。

「学校が取引の場所になってる。ヘロインと人間が、商品として今夜やりとりされるんだ、面白そうだろう? ねぇ、見てみたいなって思わない? 覚せい剤も麻薬もいくらだって手に入るんだ。大金も動くよ。学生の俺にだって報酬分が回って来る」

 仲間に引き入れたいってこと?

 そう内容を疑うような、出来るだけ冷やかそうに見える大人びた表情で、雪弥は囁き返しながら嗤ってみせた。それに気付いた常盤が、少し慌てたように「本当さ」とまくしたてる。