午後四時八分、常盤は期待と急く想いに落ちつかなかった。

 高揚した気分を抑えきれないまま、ショッピングセンター前の大きな交差点にある広場で、何度も視線を動かせて待ち人の姿を探した。一番人の行き交いが多い交差点前に、ブルーのブレザーがないかと目を配る。

 ショッピングセンターは相変わらず人の出入りが多く、常盤と同じように建物前で人待ちをする者や、立ち話をする者がちらほらと見られた。金曜日ということもあり、外食をする社会人や家族連れの姿も目立つ。

 一際大きな声が聞こえて、常盤は煩わしそうにそちらへと顔を向けた。

 寝癖がついた男の後頭部が、人の間から覗いていた。ポロシャツといったラフな格好をしたその男は、「働きもせず家でごろごろしてるおっさんみてぇ」と常盤に思わせた。

 男は不健康そうな肌と、顎先にまばらに髭を生やしていた。だらしなく下がった肩から伸びる手は、けだるそうに頭をかいており、覗いた横顔からは気力もない垂れ目が覗いている。

 そのとき、群衆から一際飛び出た強い声が上がった。常盤はその声が、男の奥に隠れている人間から発せられている事に気付いた。


「内田ぁ!」


 それは煙草を口にくわえた四十代頃の男で、シニア世代の服を着ていた。グレーや肌色といった冴えない色は、男をさらに老けて見せている。

 これから飲みにでも行きそうな男たちであると見て取り、常盤は「とっとと行けよな」と顎を引き上げた。ショッピングセンターから出た矢先で立ち止まった二人を、店内に出入りする他の客たちが迷惑そうな顔をして避けて進んでいる。

 常盤は、男の強い声色が耳障で苛立った。まるで説教が身に染みてるみたいだ、と横目に睨みつける。しかし、彼はふと歪んだ笑みを浮かべた。

 あいつなら、すぐに殺しちゃいそうだな。

 残酷な殺害場面を思い出し、常盤の興味は、再び白鴎学園の男子生徒へと戻った。

 常盤が少しだけ目に留めていた二人の男たちは、潜入している高知県警刑事部捜査一課の内田と澤部であった。張りこみ待機となっている現場に、購入した食糧を持って行くところだったのだ。ヘビースモーカーの澤部は、ショッピングセンターを出てすぐ煙草を吹かして内田を待っていたのである。

 常盤が携帯電話で時刻を確認する横で、内田の個人的な呟きに切れた澤部が「内田ぁ!」と吠えて見事なドロップキックを放った。

 かなり目立つうえ、やはり大声が特徴的で煩い。

 再び目立つ二人の「おっさん」に再び目を向けた常盤は、「元気良すぎるだろ」と呆れた。交差点前で騒ぎだす男たちに馬鹿らしくなり、携帯電話をしまって辺りを見回す。