少年たちは、今日も食欲旺盛だった。暁也はパンよりも米が多く、修一はもっぱらパンが主食となっていた。今日は金曜日なので、唐揚げや焼きそばといった総菜を豪勢に購入したのだと修一は胸を張った。

 土曜日、日曜日の二日間は食べられないので、普段から金曜日だけはこのような食事メニューを取るのだという。修一は総菜のフタを開けて行きながら、「ここの鳥唐揚げメッチャ美味いんだぜ」と雪弥にすすめた。


 唐揚げは雪弥が知っている塩辛さがなく、油分たっぷりで甘かった。暁也はオニギリと一緒に鳥唐揚げをつまみ、修一は菓子パンにそれを挟んで食べる。菓子パンに合うのか、と顔を引き攣らせた雪弥に気付いた暁也が「俺なら食べれねぇな」と素っ気なく言った。

 普段と変わらぬ少年組の食事風景を見て、雪弥は「もう顔を合わせることもないだろう」と静かに思った。一番質素な味と触感のバターパンは、相変わらず食べ進める間にもひどく喉の渇きを誘う。

 飲み慣れた苺牛乳で喉を潤したあと、けれど雪弥は自然と割り箸を伸ばして、少年たちを見ることもなく「一個もらうね」と学生みたいな事を告げて、鳥唐揚げを口に放り込んだ。それは噛みしめれば噛みしめるほど、甘くて濃厚に思えた。

 今日は珍しく、パンとオニギリだけでなくおかずも食べる雪弥を見て、まだ腹をすかせていると思った少年たちが「この苺ジャムパン美味しいぜ?」「これ、初めて買ったシソ昆布オニギリ、結構美味い」と言って食べ物を差し出す。

 雪弥は、どんなに食べても満腹しない胃の持ち主だったが、ぎこちなく笑って「ありがとう」と返した。なぜか物寂しくなり、すすめられた食べ物を一つも断わりもせず口に運びながら、今一度、修一と暁也を見つめた。


 今日の夜から、自分は二十四歳のエージェントに戻る。それを想い、雪弥は修一からもらった焼きそばへと目を落とした。


 僕がここに高校生として戻ることは、もうないだろう。

          ※※※

 学校が終わった午後四時十分、修一と暁也は早い時間だというのに珍しく町中を歩いていた。気晴らしにカラオケへ行くためである。

 いつもより人が少ない歩道を鼻歌交じりに進む修一が「そういえばさ」と暁也を振り返ったのは、大通りで一軒しかない大型ショッピングセンターの大看板が見えてきた頃であった。

「雪弥って、結構食うんだなぁ」

 その光景を思い出した暁也が、気まずそうに視線をそらせた。