「恐らくそうだろう。麻薬、大麻、覚せい剤の検挙数も右肩上がりで、合成麻薬も出回っているからどれだという特定はまだだ。ただ、私としては、今年に入ってから新しい薬物を試験的にいくつか作り出して試しているような感じがする。例の使用者の状況を見たうちの研究員が、それぞれ突起した荒や欠点がある事に気付いてな。恐らく、うちに回って来た異例の検挙者は、同じ犯罪組織が絡んでいる」

 ナンバー1は、そこで一呼吸置いてから話を再開した。

「今年の一月に見つかった集団使用者は、自我がほとんどなく、不気味なほど素直に取締捜査官に従っている。廃材置き場に老若男女十二人が座り込んでいるのを、巡回していた警察官が見つけた。痩せ細って廃人同然であるにも関わらず、指示する言葉だけが理解できたらしい」

 次に、と彼は指を立てて説明を続ける。

「二月から三月にかけては、運動能力が上がり依存性が少ないものが出回っていた。使用前と比べると、体格が全体的に大きくなっているのが特徴だ。中には十四歳の少年もいたが、写真を見ても三十代の大男にしか見えなかったな。……それがぷっつり切れると、今度は音や匂いに敏感で、脅迫障害が強く出た使用者が続出した。これが四月の話だ」

 雪弥は頭の中で順序立てながら、大人しく話を聞いていた。

 これだけ特徴や個性が出ている薬物が、約一月ごとに入れ替わって発生しているとなると、確かに彼が『どこかの組織が試験的に作り出している』という線は否めない気もする。

「薬物による五月の上旬までで逮捕したその四十八人と、それまで同時期に同じ症状が見られた人間の共通点は、東京在住ではない事だ。出身県はバラバラだが、捕まった場所はすべて東京都内。もう一つ共通している事は、誰も薬物を始めたきっかけを覚えていないばかりか、自分がどこから来たのかも分かっていない点だ」

 まるで人体実験もいいところだ、とナンバー1は吐き捨てて続けた。

「意図的に連れて来られて試験的に薬物を投与され、専門家でも難しいほど精密に記憶を弄られている、という二つの可能性が同時に出ている。警視庁にうちが介入して捜査が進んでいたが、いくつかの事件がそれと結びついて大きな事件に変わった。今、私の指示のもと本格的に動き出している。発砲事件のあと、うちのエージェントが似たような薬物常用者と遭遇したが、抑え込むのに一苦労だったそうだ。女だったそうだが痛みへの反応もなく、男三人を吹き飛ばすほどだった、と」

 彼は言葉を切って、短くなった葉巻を灰皿に置いた。雪弥が勘ぐった事に気付き、そうだといわんばかりに肯いてナンバー1は口を開く。

「荒が出過ぎた事に、首謀者たちも気付いているんだろう。うちのエージェントが取り押さえてから、またそういった逮捕者がぷっつりと出なくなった。都内で麻薬を卸していた業者の情報を入手して、少しでも手掛かりをと思って突入したが、どうやらそこが当たりだったようでな、全員口封じのために殺されていた。検挙した例の使用者たちの持っていた合成薬物を調べたが、共通していたのは、前半期で作られた物にはヘロインが混入されていたという事だけだな」

 つまりそれ以上の詳しいところは分かっておらず、捜査も半ば歩みが遅くなってしまっているのが現状だ。口封じに業者が殺された他にも、少ない手掛かりや証拠をみすみす消れてしまったせいだ。