とはいえ、秘書に水を掛けられて冷静さを取り戻した上司に、それ以上の言葉が出ず黙りこむ。塀からちぎってしまった瓦礫を眺め、指先で遊ばせながらナンバー1からの最後の言葉を待った。
『話は以上だ』
早々に通話が切れた。疲れた溜息をもらし、雪弥は携帯電話をブレザーの胸ポケットにしまった。
持っていた瓦礫を握り潰し、意味もなく指で粉々に砕いて足元へと落とす。乾いた音が平らの灰色かかったコンクリートの地面から上がり、細かい粒子は囁くように吹いた風に流れていった。
「ったく、あの人は……」
愚痴りそうになった矢先、屋上の扉から人の気配がもれた。雪弥は口を閉じると、手から瓦礫の屑を払い落して何事もなかったかのように振り返る。
「なんか怒鳴り声がしたけど、大丈夫か?」
まず屋上に姿を現せたのは、修一だった。両手いっぱいに食料を抱えた彼はそう言って、ふと顔を顰めた。
「そういえばドアが可哀そうなことになってんだけど、お前か?」
雪弥はぎこちなく笑って「まさか」と答えながら歩み寄った。修一の後ろから、「ドアノブがくるくる回るようになってるな」と言って、大量の食糧を抱えて暁也もやって来た。
一同はいつもの場所に円を描くように腰を降ろし、中央に食糧と紙パック飲料を置き広げた。パンやおにぎり、お菓子や総菜類が三人の中央で山を作っている。
「いつもより量が多いような気がするんだけど……」
「ああ、五千円分って結構難しいよな」
修一が悪戯っ子の笑みを覗かせた。
雪弥は、先程手渡した五千円札を思い返し、「なるほどなぁ」と呟いて紙パックのお茶を手に取った。それを見た修一が、途端に慌てたようにポケットを探って数枚の千円札と小銭を取り出した。
「じょ、冗談だって雪弥! ちょっとからかっただけだって気付けよ」
「え? 別にいいよ、駄賃だと思ってもらっておいて構わないから」
雪弥は当然のように述べた。修一は「え、どうしよう」と真剣に困惑した顔を暁也に向ける。
今日でこの食事ともお別れだなと思いながら、雪弥は山になった食糧を眺めていた。暁也が怪訝そうな顔を持ち上げ、修一から雪弥へと視線を移し「お前なぁ」と吐息混じりにこう言った。
「お金は大事にしろよ」
暁也は、まるで良い子の見本のような正論をあっさり言ってのけると、オニギリの袋を開けた。
それを聞いた雪弥は、複雑な心境であった。働いていない子供に駄賃をあげて何がいけないんだろう、と困惑しつつ紙パックにストロートを刺した。やはり、世代が違うと会話は難しいと思いながら、彼は「お金なんてもらえないよ」「これで結構なお菓子が買えるんだぞ」と説得して来る修一から残金を受け取った。
『話は以上だ』
早々に通話が切れた。疲れた溜息をもらし、雪弥は携帯電話をブレザーの胸ポケットにしまった。
持っていた瓦礫を握り潰し、意味もなく指で粉々に砕いて足元へと落とす。乾いた音が平らの灰色かかったコンクリートの地面から上がり、細かい粒子は囁くように吹いた風に流れていった。
「ったく、あの人は……」
愚痴りそうになった矢先、屋上の扉から人の気配がもれた。雪弥は口を閉じると、手から瓦礫の屑を払い落して何事もなかったかのように振り返る。
「なんか怒鳴り声がしたけど、大丈夫か?」
まず屋上に姿を現せたのは、修一だった。両手いっぱいに食料を抱えた彼はそう言って、ふと顔を顰めた。
「そういえばドアが可哀そうなことになってんだけど、お前か?」
雪弥はぎこちなく笑って「まさか」と答えながら歩み寄った。修一の後ろから、「ドアノブがくるくる回るようになってるな」と言って、大量の食糧を抱えて暁也もやって来た。
一同はいつもの場所に円を描くように腰を降ろし、中央に食糧と紙パック飲料を置き広げた。パンやおにぎり、お菓子や総菜類が三人の中央で山を作っている。
「いつもより量が多いような気がするんだけど……」
「ああ、五千円分って結構難しいよな」
修一が悪戯っ子の笑みを覗かせた。
雪弥は、先程手渡した五千円札を思い返し、「なるほどなぁ」と呟いて紙パックのお茶を手に取った。それを見た修一が、途端に慌てたようにポケットを探って数枚の千円札と小銭を取り出した。
「じょ、冗談だって雪弥! ちょっとからかっただけだって気付けよ」
「え? 別にいいよ、駄賃だと思ってもらっておいて構わないから」
雪弥は当然のように述べた。修一は「え、どうしよう」と真剣に困惑した顔を暁也に向ける。
今日でこの食事ともお別れだなと思いながら、雪弥は山になった食糧を眺めていた。暁也が怪訝そうな顔を持ち上げ、修一から雪弥へと視線を移し「お前なぁ」と吐息混じりにこう言った。
「お金は大事にしろよ」
暁也は、まるで良い子の見本のような正論をあっさり言ってのけると、オニギリの袋を開けた。
それを聞いた雪弥は、複雑な心境であった。働いていない子供に駄賃をあげて何がいけないんだろう、と困惑しつつ紙パックにストロートを刺した。やはり、世代が違うと会話は難しいと思いながら、彼は「お金なんてもらえないよ」「これで結構なお菓子が買えるんだぞ」と説得して来る修一から残金を受け取った。