眼下に広がる運動場や高等部校舎の窓から、子供たちの楽しげな声が溢れていた。晴れ空に包まれた少年少女は、光の世界に満ちる一つ一つの日だまりのようだ。

「修一、この俺がそばパンを分けてやろうかと言ったのだぞ!」
「だから、俺は普通の焼きそば買ったんだってば」
「お前なんでついてきてんの?」

 聴覚を研ぎ澄まされば、数キロ内で会話する聞き慣れた声も耳に入ってくる。西田と修一と暁也、今日は珍しく三人で移動しているらしい。

 眩しくて、煩わしい。

 この怨み忘れるものかと、遠い記憶や血が囁くように雪弥を無意識に引きずり込む。彼は知らず殺気立ったその瞳孔を碧く光らせて、まるで別人のような落ち着いた雰囲気を漂わせて、美麗に笑んで口の中で呟いた。

 皆、この『私』が殺してしまえれば良かったのに――……


『何か言ったか?』


 しばらく沈黙していたナンバー一が、喉の奥から絞り出すように低く尋ねてきた。その声は、知っていながら正気に戻したいと言わんばかりに苦悩が滲んでいた。

 その声を聞いて、雪弥は我に返った。少し前の自分が、一体何を考えていたのか覚えていなかった。彼からの問い掛けが分からなくて「いいえ?」といつもの声の調子に戻って答えたものの、ぼんやりとした名残で目の前に広がる景色を眺める。

 ナンバー1は『作戦実行の件だが』と言葉を強くした。

『尾崎からは許可をもらっている。派手にやってくれて構わない。二十三時の作戦開始後、お前は封鎖された学園敷地内にてリストアップされた標的をすべて始末しろ。尾賀、富川、藤村、李の四者と、やつらが連れている部下一向、実験体として取引に使われる学生すべての抹殺だ』

 躊躇なくナンバー1は言い切った。

 雪弥はそこでようやく、いつの間にか空にいた鳥を見失っていることに気付いた。少し記憶が曖昧だなと首を捻り、「了解」と言葉を返して屋上扉へと目を向けた。

 二人の少年組がまだ来ないことを確認し、体勢を戻して塀にもたれた。清々しいほど青い晴れ空と、撫でるような風がそこにはあった。子供たちの賑やかな雰囲気が、声と共に屋上へと上がってくる。

 暖かい日差しは少し暑さを増していたが、澄んだ生温い空気はそれを冷ますように吹いていた。一番に昼食を終えた男子生徒たちが運動場へ飛び出したのが見え、雪弥は「元気なのはいいけど、怪我をしないようにね」と思わず小さく呟いてしまった。

 その時、電話の向こうからこう声を掛けられた。

『ところで雪弥』
「はい?」

 冷静に返したが、雪弥は少し驚いていた。ナンバー1が任務の重要な段取りを告げた後に、真面目な空気を変えるように別の話題を振ることは滅多になかったからだ。