『うむ、実はそれだ。李は中国マフィアの間でも有名な狂人でな、人体実験で殺した人間の総数は不明らしい。彼の歳は不明だが、おおよそ七十前後の老人だと噂されている。腕がいいのか知らんが、確実な原料の仕入れ先と、中国に大量の顧客と友人を持っているようだ。現在出回っているブルードリームの提供者で、人体実験用に若い人間が欲しいのではないか、と推測される』
「ずいぶんな変態野郎みたいですね」
雪弥の口汚い言葉を無視し、上司は『実験体を引き渡すことで、ヘロインを安く買えるという手筈なんだろう』と自身の推測をあっさり口にして、話の先を続けた。
『藤村組は暴力団紛いの小さな詐欺集団だ。富川はただの学長にすぎん。尾賀はこの地域の人間とは一つの接点もなかったようだから、恐らく表社会ではも人脈がある榎林側が、今回の話を持ちかけたのだと思う。李から買い取るときは格安で手に入り、売る時は純粋純白の相場にあった高金額。一夜にして、藤村組と富川は大金を得るわけだ』
ナンバー1が、皮肉気に笑った気配がした。雪弥は屋上の塀に身体を預け、「じゃあ」と疑問を投げかける。
「こっちで新しいタイプのブルードリームを配られていた学生たちは、みんな取引で差し出される用だったんですね。そうとは知らずに、全員が『パーティー』に集まるわけですか」
『作戦が実行されれば、里久に成り変わっているエージェントはそこから退出するがな』
同じ特殊機関の人間であろうと、作戦が始動されたら学園敷地内からの撤退が決められていた。事が終わるまで、彼らは学園敷地外で待機していなければならない。
『今回お前の任務は、学園内に集まったすべての容疑者、共犯者、関係者の抹殺一掃だ。お前の仕事領域は、いつも通り潜入エージェントによって完全封鎖される。開始の合図と共に学園内の標的を抹殺。――その直前には、県警メンバーを連れた金島が茉莉海署を率いて、藤村組事務所を制圧する手筈になっている。ほぼ同時刻に、我々が東京の丸咲金融会社を中心に根付いている組織を潰す』
今夜二十三時、茉莉海市では事件に関わるすべての人間が学園に集結する。雪弥は思い返すように考えた。エージェントによって封鎖された敷地内にいる標的は、すべて処分対象である。
つまり敷地内に集い閉じ込められた者たちは、殺しても構わない人間なのだ。
知らず雪弥の唇がゆっくりと引き上がった。小さな弧を描いた唇が、今にもクスリ、と笑みをこぼしそうなほど上品にほころんで、冷え切った声色が楽しげに囁かれた。
「大人も子供も関係なく、僕が皆殺しにしていいんですよね」
青く澄んだ空が眩しくて、雪弥は柔らかく吹き抜ける風にすら殺意を覚えた。まるで五感が異常なほど研ぎ澄まされたかのように辺りの音や色を拾い、身体の内側が、ざわざわとしてひどく落ち着かない。
目が眩むような光りなんてなければいいのに、と自分のような、そうでないドス黒い怨念のような何者かの声が聞こえる気がした。こんなものがなければ絶望する事もなかった、生きている全てが憎くて恨めしい、この憎しみを決して忘れるものか……ぐるぐると、自分の知らない何かが身体を巡っている。
「ずいぶんな変態野郎みたいですね」
雪弥の口汚い言葉を無視し、上司は『実験体を引き渡すことで、ヘロインを安く買えるという手筈なんだろう』と自身の推測をあっさり口にして、話の先を続けた。
『藤村組は暴力団紛いの小さな詐欺集団だ。富川はただの学長にすぎん。尾賀はこの地域の人間とは一つの接点もなかったようだから、恐らく表社会ではも人脈がある榎林側が、今回の話を持ちかけたのだと思う。李から買い取るときは格安で手に入り、売る時は純粋純白の相場にあった高金額。一夜にして、藤村組と富川は大金を得るわけだ』
ナンバー1が、皮肉気に笑った気配がした。雪弥は屋上の塀に身体を預け、「じゃあ」と疑問を投げかける。
「こっちで新しいタイプのブルードリームを配られていた学生たちは、みんな取引で差し出される用だったんですね。そうとは知らずに、全員が『パーティー』に集まるわけですか」
『作戦が実行されれば、里久に成り変わっているエージェントはそこから退出するがな』
同じ特殊機関の人間であろうと、作戦が始動されたら学園敷地内からの撤退が決められていた。事が終わるまで、彼らは学園敷地外で待機していなければならない。
『今回お前の任務は、学園内に集まったすべての容疑者、共犯者、関係者の抹殺一掃だ。お前の仕事領域は、いつも通り潜入エージェントによって完全封鎖される。開始の合図と共に学園内の標的を抹殺。――その直前には、県警メンバーを連れた金島が茉莉海署を率いて、藤村組事務所を制圧する手筈になっている。ほぼ同時刻に、我々が東京の丸咲金融会社を中心に根付いている組織を潰す』
今夜二十三時、茉莉海市では事件に関わるすべての人間が学園に集結する。雪弥は思い返すように考えた。エージェントによって封鎖された敷地内にいる標的は、すべて処分対象である。
つまり敷地内に集い閉じ込められた者たちは、殺しても構わない人間なのだ。
知らず雪弥の唇がゆっくりと引き上がった。小さな弧を描いた唇が、今にもクスリ、と笑みをこぼしそうなほど上品にほころんで、冷え切った声色が楽しげに囁かれた。
「大人も子供も関係なく、僕が皆殺しにしていいんですよね」
青く澄んだ空が眩しくて、雪弥は柔らかく吹き抜ける風にすら殺意を覚えた。まるで五感が異常なほど研ぎ澄まされたかのように辺りの音や色を拾い、身体の内側が、ざわざわとしてひどく落ち着かない。
目が眩むような光りなんてなければいいのに、と自分のような、そうでないドス黒い怨念のような何者かの声が聞こえる気がした。こんなものがなければ絶望する事もなかった、生きている全てが憎くて恨めしい、この憎しみを決して忘れるものか……ぐるぐると、自分の知らない何かが身体を巡っている。