雪弥が小首を傾げると、暁也は「そばパンって気分じゃねぇし」とぶっきらぼうに言い放った。修一は八重歯を覗かせて「今日は普通に焼きそば買おうと思ってさ」と愛想良く答える。
そばパンをゲット出来た三組の西田が、食堂の販売窓口で感動の声を上げたのはその頃であった。そこには珍しく常盤の姿もあり、彼は三組の男子生徒たちをやかましそうに横目で見たあと、弁当を一つ買って中庭へと向かった。
そんな常盤が中庭で偶然、大学三年生の里久と居合わせて話しを始めた頃。
雪弥は二人の少年たちに、今持ちあわせている五千円札を渡して「僕の分と併せて、君たちの好きなのを買ってきてもらってもいいかな」とやったあとで、先に屋上入口に立っていた。
ナンバー1と連絡を取るため、修一と暁也をしばらく自分から引き離したのである。屋上扉には鍵が掛かっていたが、修一が来るまで待つ選択肢はなかった。雪弥は一秒ほど扉を眺め、躊躇なくドアノブに右手を振り降ろした。
わずかに金属音が上がったあと、辺りは静けさに包まれた。
ドアノブから壁にかけて何かがめり込んだような亀裂が入り、虫も殺せない顔で強行突破された鍵は、見事に機能を失って右にも左にもくるくると回るようになった。ドアノブごと切り落としたらさすがに不審がられるだろう、と彼なりに考えての結果だった。
雪弥は屋上へ出ると携帯電話を取り出し、後ろ手でそっと扉を閉めた。雲一つない青空を眩しそうに見やり、携帯電話を耳に当てて歩き出す。
しばらくコール音が続き、前触れもなくぷつりと途切れた。
『今夜の作戦事項がすべて決まった。今、時間はあるか』
低い男の声が響いた。ナンバー1である。雪弥は「大丈夫ですよ、どうぞ」と言いながら歩み続けた。
『先日死亡した榎林を含むメンバー、および里久に関してはすでにエージェントが成り変わって現地に入っている。今日取引に関わる組織は、東京の丸咲金融会社第一支店の尾賀、白鴎学園大学部学長富川、藤村組、そして中国からの密輸業者であり、裏で自称科学者を名乗っている李の四者だ。藤村組に関しては、事務所に残ったメンバーを容疑者としてあげる。他の処分リストはすでに作成済みだ』
雪弥が上空を飛ぶ鳥へと目を向けたとき、ナンバー1は一度言葉を区切った。『ちゃんと聞いているだろうな』と声を掛けられ、雪弥は空を仰ぎながら「いい天気ですよねぇ」とそのままの心境で返した。
電話越しに大きな舌打ちが響き、咳払いのあとナンバー1の説明が再開した。
『二十三時に集まるメンバーはリーダー藤村、富川学長、尾賀、李の四人とその部下だろう。何人集まるかは分からんが、一時間前には大学校舎にてブルードリーム使用者の大学生が全員集まる情報は掴んでいる。我々は、取引の材料に使われるのではないかと踏んでいる』
「自称科学者、というのが気になりますね」
そばパンをゲット出来た三組の西田が、食堂の販売窓口で感動の声を上げたのはその頃であった。そこには珍しく常盤の姿もあり、彼は三組の男子生徒たちをやかましそうに横目で見たあと、弁当を一つ買って中庭へと向かった。
そんな常盤が中庭で偶然、大学三年生の里久と居合わせて話しを始めた頃。
雪弥は二人の少年たちに、今持ちあわせている五千円札を渡して「僕の分と併せて、君たちの好きなのを買ってきてもらってもいいかな」とやったあとで、先に屋上入口に立っていた。
ナンバー1と連絡を取るため、修一と暁也をしばらく自分から引き離したのである。屋上扉には鍵が掛かっていたが、修一が来るまで待つ選択肢はなかった。雪弥は一秒ほど扉を眺め、躊躇なくドアノブに右手を振り降ろした。
わずかに金属音が上がったあと、辺りは静けさに包まれた。
ドアノブから壁にかけて何かがめり込んだような亀裂が入り、虫も殺せない顔で強行突破された鍵は、見事に機能を失って右にも左にもくるくると回るようになった。ドアノブごと切り落としたらさすがに不審がられるだろう、と彼なりに考えての結果だった。
雪弥は屋上へ出ると携帯電話を取り出し、後ろ手でそっと扉を閉めた。雲一つない青空を眩しそうに見やり、携帯電話を耳に当てて歩き出す。
しばらくコール音が続き、前触れもなくぷつりと途切れた。
『今夜の作戦事項がすべて決まった。今、時間はあるか』
低い男の声が響いた。ナンバー1である。雪弥は「大丈夫ですよ、どうぞ」と言いながら歩み続けた。
『先日死亡した榎林を含むメンバー、および里久に関してはすでにエージェントが成り変わって現地に入っている。今日取引に関わる組織は、東京の丸咲金融会社第一支店の尾賀、白鴎学園大学部学長富川、藤村組、そして中国からの密輸業者であり、裏で自称科学者を名乗っている李の四者だ。藤村組に関しては、事務所に残ったメンバーを容疑者としてあげる。他の処分リストはすでに作成済みだ』
雪弥が上空を飛ぶ鳥へと目を向けたとき、ナンバー1は一度言葉を区切った。『ちゃんと聞いているだろうな』と声を掛けられ、雪弥は空を仰ぎながら「いい天気ですよねぇ」とそのままの心境で返した。
電話越しに大きな舌打ちが響き、咳払いのあとナンバー1の説明が再開した。
『二十三時に集まるメンバーはリーダー藤村、富川学長、尾賀、李の四人とその部下だろう。何人集まるかは分からんが、一時間前には大学校舎にてブルードリーム使用者の大学生が全員集まる情報は掴んでいる。我々は、取引の材料に使われるのではないかと踏んでいる』
「自称科学者、というのが気になりますね」