「メンバーに入れるって言ってなかったか?」
「言ってました。殺しなんて普通にやってのける奴らしいっすけど、何か聞いてます?」
「いや、なんも聞いてねぇな。そんな物騒な奴この町にいたか?」

 藤村の問いかけに、掛須は首を横に振った。肩をすくめると大げさに息をつく。

「こっちは平和なもんですよ、警察が動くのもほとんどないっすから」
「だよなぁ……」

 しばらく沈黙を置き、掛須は「勝手に動かれちゃ困りませんか」と藤村に意見した。開いた膝の上に腕を乗せ、身を乗り出すように藤村を見つめる。陰った瞳は「常盤はまだガキなんすよ」と語るようだった。

 対する藤村は、特に気にする様子もなくセットされた頭髪を撫でた。

「何、やらせておけ。なんかあればすぐ連絡するだろ。人殺しも平気な野郎だったらすぐに使える人材だ、俺は大歓迎だぜ。尾賀さんの組織自体そういうやばい連中が勢ぞろいしているからな。うちも大きくなるから戦力は必要だろう。それに、常盤の目は確かだ」

 藤村は尾賀の人間性は嫌いだったが、彼が持っている組織とその地位に憧れを抱いていた。初めて会ったとき、尾賀はプロの暗殺集団を連れて茉莉海市を訪れたのだ。

 小柄で鼠のようにずる賢そうなその男は、殴り合いも出来ない人間でありながら強面の屈強な男たちを顎で使った。「私の後ろには大きな組織のお方がいらしてね」ときぃきぃと耳障りな声で自慢し、殺しの処理も情報操作も、警察すら動かすことが出来る立場に藤村は羨望した。

 今回は白鴎学園で初の取引ということもあり、尾賀自身がその様子を見るため訪れる。しかし、本来は自分で動く必要もない立場なのだ。そこもまた羨ましい。

 常盤がスカウトする人間については、藤村を含めるメンバー全員が詳細を知らないでいた。常盤は「後で決まり次第連絡するから」と昨日の夕刻、事務所を飛び出してからその件に関しては音沙汰がない状態だ。

 どういったことが決まるのかは分からないが、学校が終わった頃に連絡が来るだろう、と藤村は気楽に構えていた。賢く慎重に動く常盤が、自分たちの足を引っ張るような真似をするはずがないと彼は考えていたのだ。

 藤村は、何気なく腕時計を見やった。気が短い彼の性格を知っている掛須は、取引のことを考えているのだろうと受け取り、少しでも暇を潰せるものを考えてから「何か食べますか」とまずは声を掛けた。