白鴎学園周辺に潜伏した暗殺部隊は、雪弥の指示通り身を潜めていた。昨日こちらに到着した金島一行は、筋書き通り藤村組を「覚せい剤取締法、麻薬および向精神取締法」で逮捕する準備にかかっていた。


 昨日、二番目の被害者となった鴨津原健について、研究班はこう回答していた。


『調べてみたところ、彼はレッドドリームを摂取していませんでした。仕組みは不明ですが、ブルードリームのみで急激な変化が起こって細胞が自滅しちゃってます。他に例もないので断言は出来ませんが、恐らくそちらで出回っているブルードリームの特性の一つなのではないかと』

 研究班の男はそう続け、一般人への二次被害と国を脅かす危険性も示唆した。

『以前の里久という被害者同様、筋肉、骨格レベルでの変化も確認されました。外見の変化に向かう前に、細胞が自滅したという感じになりますね……つまり、へたすると一つの薬だけで「第二の里久」「第三の里久」が出来上がる可能性も、ゼロではなくなるわけです』

 引き続き研究班の方で調査は進められるが、その結果を踏まえて、ナンバー1は『一掃』との判断を下していた。

 雪弥は風呂をすませ、今日で最後となる高校生セットに身を包んだ。今夜の計画については心配していないが、普段自分が使っている携帯電話をしまい、変装道具の一つである代用の薄い携帯電話を手にとったとろで、そこにも暗雲を覚えて動きを止めた。

 そういえば先日の授業中に、兄から着信があったのをすっかり忘れていた。

 遅れてその事実を思い出し、もしやと思って「不在着信」のページを開いてみると、「蒼慶」の電話番号がズラリと並んでいた。雪弥は、またしても眩暈を覚えた。

 なんだか、嫌なことが起こりそうな……

 まるで、占いで「今日の運勢は凶ですよ」と告げられたような気分だった。

 蒼緋蔵の名が災厄を呼ぶなんて大げさな、と雪弥は気を取り直して外へと出た。玄関に鍵を掛けると、晴々とした空気を肺いっぱいに取り込もうと背伸びをしたところで、不意に、殺気混じりの気配に髪先がチリリと痛むような感覚があった。

 何者かに場所を探られている嫌な気配を覚え、雪弥は辺りをうかがいながら、エレベーターへ乗り込んだ。そのまま郵便受けがある広い一階フロアへと降り、建物の正面入り口からマンションを出る。


 歩き出してすぐ、静まり返った道路の向こうから、一台の高級車が走行して来るのが見えた。それは車体の長い黒ベンツで、窓ガラスも黒く覆われて分厚い装甲に改良されており、タイヤも防弾タイプで幅が太かった。


 嫌な予感を覚えて足を止めていると、滑るような走行を続けていたベンツが、マンション正面で速度を落とした。佇む雪弥のそばで停車したかと思うと、左後部座席の窓がわずかに開いた。

「やあ、はじめまして。蒼緋蔵家の雪弥君」