ふわりと揺れる髪は色素が薄く、蒼色とも灰色とも見て取れる色合いをしていた。男の顔面に銃弾を撃ち込む際覗いた横顔は小奇麗で、白い肌に映える返り血と、殺気立った冷たい瞳が、常盤の中に焼き付いて離れない。

 見覚えのない上品な容姿は、常盤に転入生の存在を思い起こさせた。今週の月曜日、三年四組に来たという優等生だろうか、とそんな推測が脳裏を過ぎる。


 乾いた唇を舐め、常盤は急く思いで親指の爪をかじった。

 憧れの凶悪犯たちが彼の脳裏を一斉に流れたが、もう何の感動も興奮も覚えなかった。渇望するのは、もはや茉莉海市にやってきたその「転入生らしい少年」だけだった。

 暴力や詐欺を働く藤村、東京にある大きな組織の尾賀、貪欲で賢さの欠片もない富川という面々の中で、容姿の美しさに不釣り合いな凶暴さを秘めたその少年の存在感は、より一層際立った。

 声を掛けなれば。でも、どう話しかけようか?

 そう考えたところで、常盤は明日が絶好の日であることに思い至った。

 明日の二十三時には取引が行われる。話を持ちかけるだけでなく、実際に現場を見せてあげることも出来るのだ。

 常盤は想像して酔いしれた。再び彼の悪に焦がれる心に火がついて、居ても立ってもいられなくなり、ベッドから起き上がって鞄に入れていた凶悪犯罪について書かれている本を手に取った。

「お、もういいんか?」

 大丈夫か、というニュアンスで平圓が尋ねた。「だから腹が痛いわけじゃないんだってば」と答える常盤の顔には笑みが絶えない。「またいつもの本かぁ」と別の男が呟き、目が痛くならないのかと不思議そうに一同が首を捻る。

 そんな中、藤村が麻雀の牌を押し上げ「いつものことだろ」と揃った手駒を眺めた。