『蒼緋蔵家の番犬、いや、副当主の事となると話は違ってくる、か。また場を改めて――』


 その瞬間、スピーカーに弾のなくなった銃がめり込んだ。機器を砕いて貫通した銃が、そのまま壁に突き刺さり、鉄の棒で組み立てられた台が滑り落ちて室内の空気を甲高く震わせた。

 衝撃で舞い上がった埃の中で、振動を受けた台から小さなビデオカメラが落ちた。埃と落ち葉に溶け込むように、そのレンズを一階広間へと向けたまま、自動調節機能が働いてジーッという稼働音を立てる。

 ここへ来て、蒼緋蔵家か。

 雪弥は、踵を返して歩き出した。目にも止まらぬ速さで残酷な殺され方をされた榎林の死に対して、男たちがホラー映画のワンシーンのような、この世のものとは思えない恐怖に頭の整理が追い付かないで見守る中、真っすぐ階段を上る。

 最上段に血まみれになった腕を力なく落とした鴨津原が、雪弥の姿に気付いて重々しく目を動かせた。彼はどうにかといった様子で唇を開いたが、血液まみれで言葉は出て来なかった。

 その唇が、自分の名を刻んだと知って、雪弥はそばで膝を落とした。

 もはや顔の半分まで血まみれになった鴨津原を、けれど躊躇することなくそっと引き寄せて、曲げた足に彼の頭を乗せる。そして、近くから静かな瞳で見つめ返し「鴨津原さん」と囁きかけた。

 今や鴨津原は虫の息だった。浅い呼吸が続き、血の匂いと共に湿った空気を吐き出す。涙と血に濡れた彼の顔が、それでも求めるように雪弥を見上げて、近くから視線が合った瞬間、不意に表情を歪めた。

 途端、鴨津原が喉の奥から吹き上がる血液に咳き込み、再び激しく吐血して、自身の口と雪弥の膝上に血を湿らせた。

「鴨津原さん、苦しいですか……?」

 助ける術などなかった。彼の身体が、どんどん死に向かっているのが分かった。雪弥には、今の彼の苦痛を取り除く方法が一つしか浮かばず、これ以上の問い掛ける言葉もなく口を閉じる。

 鴨津原が力なく頭を預けて、「俺、死ぬのか」と潰れた声でぼやいた。涙は止まらず、骨ばった頬を流れ続けている。

 雪弥は沈黙を貫いたまま、彼の腹部にゆっくりと触れて、宥めるようにさすった。触れた指先が、ぐしゃり、と内臓が一人でに崩壊する感触を伝えてきて、ただ、お互い言葉もなく見つめ合う。

「――そうか、俺は死ぬのか」

 ふと、鴨津原が泣き顔のまま唇を引き上げて、誰の返答を受けたわけでもないのに、正しく悟ったようにそう呟いた。くぐもる音の羅列は、どこか安堵するかのようにも聞こえた。