榎林が低く呟いたとき、全員に少年だと思われている雪弥の口元に笑みが浮かんだ。「ただの高校生ですよ」と述べた彼は、手の届く範囲まで近づいた二人組のうちの一人の男の腕を素早く掴むと、間髪入れず振り降ろしていた。
一秒足らずでコンクリートに叩きつけられた男が、苦痛の声を上げて喚いた。うつ伏せになった彼の右腕は折れ、曲がるはずのない方向へ捻じれている。それを見たもう一人の男が「この野郎!」と拳を突き出したが、威勢ある声が途中で細くなった。
殴りかかってきた拳を、雪弥は右手の指一本で止めた。男が目を見開いて動きを止めた刹那、おもむろに左腕を持ち上げて何気ない仕草で男の腕を払う。
瞬間、バットで打ち払われたように男の腕が弾かれて、鈍い音を立てて折れクの字を作った。彼が痛みを訴える声も許さず、雪弥はその脇腹へと狙いを定め――
そのとき、一発の銃声音がけたたましく鼓膜を打ち、雪弥は右足を地面から浮かせた状態でぴたりと動きを止めた。
放たれた銃弾は、壁に小さな溝を開けてめり込んでいた。発砲先にいたのは怒りに顔を赤らめた柿下で、構えた銃口からは硝煙が上がっている。腕を折られた男は、呼吸にすら痛みを覚えるよう様子で崩れ落ちて身を丸めた。
「動くなよ、動くと上の奴を撃つぜ!」
まさか出てくるとは思っていなかった。
雪弥は小さく吐息をこぼすと、呻き転がる二人の男の前で後ろを振り返った。そこには階段上部から姿を見せていた鴨津原がいた。
怖いもの見たさでもあったのか、鴨津原が階段の上で向けられた銃に身体を強張らせていた。
どうしてじっと待っていられなかったのかと、雪弥は再び浅く溜息をこぼしてしまう。自分がなんとかするから、下が静かになるまで出てきてはいけないと告げたのは先程のことである。
「…………とんでもねぇガキだな」
そんな雪弥の様子を警戒したように見つめていた佐々木原が、ゆっくりとそう口にしながら、下がったサングラスを押し上げて銃を手に持った。その隣では、榎林がみっともないほど震え、蒼白した顔で小さな目を見開いている。
一人口ごもって思案を続ける榎林を無視し、佐々木原が二秒半後に指示を出した。
「あいつらは後で病院だ。谷、那口、お前らは上のガキ連れて来い」
茫然と立ち尽くしていた二人の男が、名を呼ばれて数秒遅れで動き出した。懐から銃を取り出したその二人が階段を登り始め、鴨津原が膝を震わせながら足元おぼつかず奥へと引っ込む。
柿下はすぐ雪弥へと銃口を向け、緊張に表情を歪めてもう一度「動くなよ」と告げた。
一秒足らずでコンクリートに叩きつけられた男が、苦痛の声を上げて喚いた。うつ伏せになった彼の右腕は折れ、曲がるはずのない方向へ捻じれている。それを見たもう一人の男が「この野郎!」と拳を突き出したが、威勢ある声が途中で細くなった。
殴りかかってきた拳を、雪弥は右手の指一本で止めた。男が目を見開いて動きを止めた刹那、おもむろに左腕を持ち上げて何気ない仕草で男の腕を払う。
瞬間、バットで打ち払われたように男の腕が弾かれて、鈍い音を立てて折れクの字を作った。彼が痛みを訴える声も許さず、雪弥はその脇腹へと狙いを定め――
そのとき、一発の銃声音がけたたましく鼓膜を打ち、雪弥は右足を地面から浮かせた状態でぴたりと動きを止めた。
放たれた銃弾は、壁に小さな溝を開けてめり込んでいた。発砲先にいたのは怒りに顔を赤らめた柿下で、構えた銃口からは硝煙が上がっている。腕を折られた男は、呼吸にすら痛みを覚えるよう様子で崩れ落ちて身を丸めた。
「動くなよ、動くと上の奴を撃つぜ!」
まさか出てくるとは思っていなかった。
雪弥は小さく吐息をこぼすと、呻き転がる二人の男の前で後ろを振り返った。そこには階段上部から姿を見せていた鴨津原がいた。
怖いもの見たさでもあったのか、鴨津原が階段の上で向けられた銃に身体を強張らせていた。
どうしてじっと待っていられなかったのかと、雪弥は再び浅く溜息をこぼしてしまう。自分がなんとかするから、下が静かになるまで出てきてはいけないと告げたのは先程のことである。
「…………とんでもねぇガキだな」
そんな雪弥の様子を警戒したように見つめていた佐々木原が、ゆっくりとそう口にしながら、下がったサングラスを押し上げて銃を手に持った。その隣では、榎林がみっともないほど震え、蒼白した顔で小さな目を見開いている。
一人口ごもって思案を続ける榎林を無視し、佐々木原が二秒半後に指示を出した。
「あいつらは後で病院だ。谷、那口、お前らは上のガキ連れて来い」
茫然と立ち尽くしていた二人の男が、名を呼ばれて数秒遅れで動き出した。懐から銃を取り出したその二人が階段を登り始め、鴨津原が膝を震わせながら足元おぼつかず奥へと引っ込む。
柿下はすぐ雪弥へと銃口を向け、緊張に表情を歪めてもう一度「動くなよ」と告げた。