「そのシャツにそば屋山星と書いてあるが、ずいぶん鍛えられる仕事なのか?」
「うーん、まぁ結構人手不足で忙しいとは思いますけど……」
「ふうん。実は、そばが食べたいと思っていたところだ。そのそば屋は美味いか?」
ダークスーツを着込んだ大男の唐突な問いかけに戸惑いながらも、雪弥はそば屋の場所を教えた。
それが、雪弥と国家特殊機動部隊総本部トップの出会いだった。ナンバー1は客の振りをしてそば屋に入った後、十六歳だった雪弥に高時給のアルバイトを持ちかけたのだ。
電話番号だけをもらったその数日後に、なぜかタイミングよく優秀な従業員が二人入り、夜遅くまで勤務しなくてもいい事になった。どうも胡散臭いような気配を覚えたが、時給の高さに負けてそのバイトを引き受ける事にした。
他に掛け持ちをしている夜の仕事を切っても、じゅうぶんすぎる給料を手にする事が出来たからだ。雪弥は、それがエージェント補佐の仕事であるとは知らずに、しばらくは警察の手伝いだと信じたまま、彼らの仕事をサポートする事になった。
その後、高校生にして正式に国家特殊機動部隊総本部に務めると、雪弥は早急に地位を確立していった。そして高校二年生への進学を控えた頃、彼は気付くと、ナンバー4の地位に就いていたのである。
※※※
とはいえ、お互いの過去や経歴を明かす事が少ないのが、特殊機関という場所だった。他のエージェントたちにとって彼は、「雪弥」という本名を明かしているだけの得体の知れない上官でしかなかったのだ。
ただ呟いただけなのに、技術室が緊張感が強まったのもそのせいである。
周りの研究員やエージェントたちがうろたえる中、当の雪弥は、昨日蒼緋蔵家当主である父から連絡を受けた後、仕事の報告後に電話を入れるつもりだったことを思い出していた。
目の前で力の差を見せつけられた二桁台のエージェントは、開発途中の小型銃を持ち上げたまま、ナンバー4が浮かべる気が抜けそうな表情を見て「裏があるのではないか」と息を呑む。
「性能はいいと思うよ」
雪弥は、振り返って研究者たちに言うと、自然な動きで大型の銃をテーブルの上に置いた。くぐもるような余韻を持った重々しい音が室内に響き渡り、それがかなりの重量を持った武器であった事を研究員たちは再確認した。
そもそも、彼が軽々と片手で持ち上げていた開発途中の大型銃は、本来は手で持つべきものではない。専用の土台に設置し、そこから標的めがけて発砲するのが理想のスタイルなのだ。
なんか、いつも活気がないよなぁと思いながら、雪弥は静まり返った部屋を出た。入る前はいつも賑やかなのだが、なぜか扉を開けると、そこには調子が悪そうな空気ばかりが漂っているのである。
小首を傾げた廊下で携帯電話を手に取ろうとした雪弥は、ふと顔を上げて立ち止まった。内部放送で、自分のナンバーが呼ばれたのを聞いたのだ。
「次の仕事の話かな」
雪弥は明日の天気でも言うように呟き、慣れたように白い廊下を進み始めた。
「うーん、まぁ結構人手不足で忙しいとは思いますけど……」
「ふうん。実は、そばが食べたいと思っていたところだ。そのそば屋は美味いか?」
ダークスーツを着込んだ大男の唐突な問いかけに戸惑いながらも、雪弥はそば屋の場所を教えた。
それが、雪弥と国家特殊機動部隊総本部トップの出会いだった。ナンバー1は客の振りをしてそば屋に入った後、十六歳だった雪弥に高時給のアルバイトを持ちかけたのだ。
電話番号だけをもらったその数日後に、なぜかタイミングよく優秀な従業員が二人入り、夜遅くまで勤務しなくてもいい事になった。どうも胡散臭いような気配を覚えたが、時給の高さに負けてそのバイトを引き受ける事にした。
他に掛け持ちをしている夜の仕事を切っても、じゅうぶんすぎる給料を手にする事が出来たからだ。雪弥は、それがエージェント補佐の仕事であるとは知らずに、しばらくは警察の手伝いだと信じたまま、彼らの仕事をサポートする事になった。
その後、高校生にして正式に国家特殊機動部隊総本部に務めると、雪弥は早急に地位を確立していった。そして高校二年生への進学を控えた頃、彼は気付くと、ナンバー4の地位に就いていたのである。
※※※
とはいえ、お互いの過去や経歴を明かす事が少ないのが、特殊機関という場所だった。他のエージェントたちにとって彼は、「雪弥」という本名を明かしているだけの得体の知れない上官でしかなかったのだ。
ただ呟いただけなのに、技術室が緊張感が強まったのもそのせいである。
周りの研究員やエージェントたちがうろたえる中、当の雪弥は、昨日蒼緋蔵家当主である父から連絡を受けた後、仕事の報告後に電話を入れるつもりだったことを思い出していた。
目の前で力の差を見せつけられた二桁台のエージェントは、開発途中の小型銃を持ち上げたまま、ナンバー4が浮かべる気が抜けそうな表情を見て「裏があるのではないか」と息を呑む。
「性能はいいと思うよ」
雪弥は、振り返って研究者たちに言うと、自然な動きで大型の銃をテーブルの上に置いた。くぐもるような余韻を持った重々しい音が室内に響き渡り、それがかなりの重量を持った武器であった事を研究員たちは再確認した。
そもそも、彼が軽々と片手で持ち上げていた開発途中の大型銃は、本来は手で持つべきものではない。専用の土台に設置し、そこから標的めがけて発砲するのが理想のスタイルなのだ。
なんか、いつも活気がないよなぁと思いながら、雪弥は静まり返った部屋を出た。入る前はいつも賑やかなのだが、なぜか扉を開けると、そこには調子が悪そうな空気ばかりが漂っているのである。
小首を傾げた廊下で携帯電話を手に取ろうとした雪弥は、ふと顔を上げて立ち止まった。内部放送で、自分のナンバーが呼ばれたのを聞いたのだ。
「次の仕事の話かな」
雪弥は明日の天気でも言うように呟き、慣れたように白い廊下を進み始めた。